2006年03月22日

フォレスト・ガンプ ウィンストン・グルーム

 つい最近、BSで映画をやっていた。もう終盤近くで、ジェニーと何度目かの再会を果たしフォレストJr.の存在を知ってフォレストがうろたえるというクライマックスシーンだったのでつい最後まで見てしまった。

 何故フォレストがうろたえるかというと、ジェニーが子供を産んでいたという事実を知らされず、いきなり自分に息子ができたことに面食らったという事もあるが、それ以上に我が子が自分みたいに知恵遅れであったら不憫だという親心からひたすらうろたえるのだ。

 もちろんこの映画は、このシーンがなければさほど映画としてはいい出来というわけではない。知恵遅れのフォレスト・ガンプを見事に演じたトム・ハンクスのうまさと、破天荒で波瀾万丈なエピソードを淡々とつなぐ演出を最後までつらぬいたローバト・ゼメキス監督の演出の確かさは買う。しかし、実際のニュース映像にフォレストをはめ込む事で生まれるはずだった荒唐無稽さは、逆に型どおりのユーモアに収まってしまってさほど効果的な演出とは言えなかった。

 そこで原作はもしかしてもっと面白いのかとふと思ったのだ。というより小説ならば面白く映画には不向きという題材や内容である場合もあるから、ふと興味をもったのだ(もちろん映画で面白く小説では不向きと逆の場合もある)。

 原作は読めばすぐわかるのだが、すごく違和感のある始まり方をする。フォレスト・ガンプの一人称で語られる小説なのだ。そこでフォレストは世間からは間の抜けた人間として扱われているが、自分としてはずっとまともだと思うというような事を、フォレスト自身がホントにまともに語る。つまり映画のトム・ハンクスとは大違い。非常に常識があるがただし世間知らずの若者、それがフォレスト・ガンプなのだ。

 例えば「アルジャーノンに花束を」のチャーリー・ゴードンのように知能指数の低さを言葉遣いから行動のちぐはぐさのあらゆる手だてを使って描いていく事もひとつの方法だ。「アルジャーノン」では経過報告という形態で綴りの誤字・脱字も知能の表現方法として用いるという徹底ぶりだった。

 その意味では本作は経過報告でも日記でもない。フォレストの一人称は実際の発話ではなく心理的発話と解釈する事もできる。心理的発話だから語り口はしごくまっとうなものでもよいという約束は成り立つ。ただしこの安直さ・気安さは、これから始まる物語の性質をあらかじめ予想させる。それは至極楽観的なファンタジーだ。

 このファンタジーは、映画とは較べようもなく荒唐無稽だ。例えば知能指数が70であるフォレストは、普通の学校には通えずいわゆる特殊学級のクラスに通いつづけつらい日々を送るが、フットボールの才能を見いだされて大学に進学する。その一方で退学にされないようにととった「光学」の授業で数学のずばぬけた能力があることも披瀝する。

 さらには、この知能指数70の男は、のちに覚えた読書でドストエスキーの「白痴」「二十日鼠と人間たち」「リア王」も読んで、しごくまっとうな解釈を引き出している。

 僕からすれば、いや誰にしてもフォレスト・ガンプという男が天才である事は間違いない。才能にムラがあるとしても、習うより慣れよ式でフットボールも数式もハーモニカも卓球もこなしてしまう彼を知恵遅れというのは非常に違和感があるのだ。

 そこではたと気づく。フォレストの知能指数の低さを著者は「無垢な精神」と同義として描こうとしているのだ。そのためだけに知能指数の低い人物を主人公に据えている著者とこの作品にうさんくささを感じるのは、まさにこの点である。

 一方でこの作品が楽観主義に貫かれたファンタジーと見なす事にも、実は違和感がある。

 大学を放逐されたフォレストは陸軍に徴兵されベトナムへ赴く。ベトナムで戦功をたて叙勲を受け、反戦デモの場で勲章を投げた廉で精神病院に収監され、司法取引きで宇宙船にサルと乗り込む羽目になりトラブルで人食い人種の島に不時着して数年をそこで暮らす事を余儀なくされる。

 この一見すると荒唐無稽な筋立ては、著者が無垢な精神であるフォレストを、60〜70年代を象徴する政治的な出来事に放り込むための一種の方便であり、フォレストという時代を超越した存在を道化役に選んだのは、まさに当時の愚かな事件や人々を皮肉るためと言える。

 しかしフォレストを無垢な精神に仕立て上げたのも著者なら、無垢な精神故に60年代、70年代を総括する資格があると考えるのも著者である。フォレストはひたすら楽観主義をつらぬき、80年代から先の見えない未来を乗り越えようとする。そこに「ガンピズム」なる未来へのメッセージを著者が発信するのは、楽観を超えて無責任とでもいうしかない。
(2006年3月19日読了)


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