この手のファンタジー色が強い作品では、どこまでが物語上の嘘かわからないが、冒頭で本作が何かの文学賞を受賞したと書かれていたはずだ。ウェブで改めて検索すると、著者サンティスはアルゼンチンの作家で、本書は2007年第一回プラネタ−カサメリカ賞受賞作だそうだ。作品の雰囲気からすると、「日本ファンタジーノベル大賞」のような賞なのかもしれない。
エッフェル塔がランドマークとして建設され注目を集めた、1889年のパリ万国博覧会を舞台にして、ホームズの末裔である〈名探偵〉たちが、時代の流れに取り残されようとしながらも、輝かしき過去の栄光を披瀝するという展示企画が博覧会で催される。古き良き時代を生きのびた、癖のある探偵たちとその助手らが世界中からパリに集まってくる。
主人公は、ある老探偵の催した講義の生徒に過ぎないが、つぎつぎとやめていく生徒の中を、一番優秀な生徒とともに最後まで残り、老探偵の助手になることを、いや、いつの日か探偵になることを夢見て老人に付き従う。やがて、老人の人間としての平凡さや、探偵能力のうさんくささが目についてくる。しかも、悪逆非道な怪盗と組織に対して正義を貫くはずの名探偵が、時として悪以上に非情な手管を弄したり、善側と悪側が共感しながら並び立つ事があることを知り、若者は愕然とする。
要するに「名探偵」を夢想する青年は、探偵たちの人間性の醜さに触れることで人生を学び、若さを費消してゆくのだ。
近代的な合理精神が充填された現代社会では、白と黒がないまぜになった時代を生きた探偵も怪盗も、同時に居場所を失わざるを得ない。今を謳歌する世代からは、親父や老人のたわごとと言われようが、僕らはノスタルジーを抱えて涙しながら、彼ら名探偵の退場を静かに見守るしかないのだ。
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2010年05月27日
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