2010年05月25日

赤い館の秘密 A.A.ミルン(2009/12/2読了)

 黄金期の本格ミステリー以前の名作とされる。なによりドイル以降受け継がれてきた英国ミステリーの系譜の中でも、とくに名高い作品であるのは、ひとつには作者がA.A.ミルンという「くまのプーさん」を生み出した児童文学作家である事が大きい。ミルンが「まえがき」に書いているように、「あなたに求められているのはミステリーではなく児童文学だ」と、相談した出版社の人々が口々に忠告したにも関わらず本書を書き上げると、それ以降は本業の児童書を書いても「あなたに求められているのはミステリーだ」と言われる始末だと、ユーモアをこめて告白している。

 もちろん、ミルンのネームバリューが幸いしただけでなく、作品そのものがミルンの児童書同様に良質なユーモア精神に貫かれているが人気の理由だろう。例えば殺人が起きたとしても、のどかな英国の田舎を背景にしてどこかまのびした屈託のなさが作品全体をおおっているので、とにかく安心して読める。しかも、ホームズのような合理的知識に裏打ちされ科学的・実験的捜査をよしとする職業として探偵を作者ミルンは好まず、好奇心にあふれ正義感が強く、危機に立ち向かう知恵と、虎穴に入る事を辞さない勇気をあわせもつ、冒険家のようなタイプの素人探偵を主人公に据えている。

 ストーリーは冒頭におさだまりの屋敷の見取り図が挿入され、旧来からのパズルミステリーの常道を行く趣向を持ち込んではいるが、どちらかというと大仰なトリックは見あたらず、素人探偵が勇気と知恵であちらこちらを探ってはつついているうちに次第に見えてくる謎と答えを、読者も一緒になって見て回るというツアー型ミステリーに近いものがある。これをもっと扇情的に好奇心を煽るようなツアーに仕立て上げていくと、「ダヴィンチ・コード」のような一連のミステリーツアーというジャンルに成長していくのかもしれない。
posted by アスラン at 13:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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