2006年03月19日

本陣殺人事件/車井戸は軋る/黒猫亭事件 横溝正史

 じつは「本陣殺人事件」は昨年に読み終わっている。今回はその残りの短編2編を読んだ。

 ほんとうの事を言うとこの本を読んだのは高校生の頃が最初で、当時は古谷一行版金田一シリーズが大人気だった。エラリー・クイーン好きからミステリー好きになったのには、このドラマの影響は大きかった。

 石坂浩二版金田一の「犬神家の一族」が大当たりをとり、少し遅れてテレビシリーズが始まるに至って僕は次々に繰り出される横溝正史の世界にすっかり魅了されていた。そこで改めて僕は横溝正史の原作を一冊も読んでない事に気づいたのだ。

 そう言えば映画にあわせて近所のなじみの本屋では角川文庫の横溝作品が多数置かれていた。そのあまりの多さに店のおばさんに「どれがオススメか」と聞く始末だった。おばさんからは結構読んでいたらしくいっぱいあるけど全部が面白い訳じゃないよとアドバイスにならないアドバイスをもらったような気がする。

 結局読書ではクイーンのパズルミステリーにはまっていた僕の趣味からは「犬神家」だとか「八つ墓村」などは口に合いそうにないと思ったのか、最初に読んだのは「本陣殺人事件」だった。やはりテレビシリーズの2作目で面白さと本格ミステリーらしい筋立てに魅せられたからだろう。

 一般的には機械的トリックに分類される本作の密室の謎は、それが現実に可能かどうかというより、日本情緒溢れる離れ家で起こる血みどろの殺人が、銃や毒ではなく日本刀を凶器として行われて雪におおわれた庭のまんなかに抜き身が突き刺さっているというまがまがしい演出こそに命がある

 前後で聞かれる琴の音色。遠く聞こえる水車の音。風にしなる竹やぶのざわめき。庭の木に刺さった雨戸、欄間、鴨居、金屏風。これでもかというように横溝作品の肝であるケレン味とトリックとが見事に溶け合って一体化している

 それだけではなく実は心理的なトリックの方も見事で、何故三つ指の男は本陣を訪れたのかにすべて納得のいく解答が用意されているところにもうならされる。

 「本陣…」は長編と言うより中編といった長さなので、短編が2編抱き合わせになっている。あまり記憶に残ってないのはやはり趣味に合ってなかったのかもしれないし、「本陣」目当てで読んだからあとの短編には身が入ってなかったのか。

 改めて読むとそれなりに面白い。「本陣…」は金田一耕助が初めて登場する作品で金田一の容貌やプロフィールの記述が楽しめるのだが、「車井戸は軋る」や「黒猫亭事件」は、「獄門島」を解決した後の事件という位置づけで、金田一が同事件の解決に関わったことが警察関係者にも知れ渡っている。だから見てくれは冴えない男なのに、あの「獄門島」事件を解決した探偵だとわかるととたんに一目置くようになる

 日本の探偵としての一つのパターンがここに見られる。現実にはあり得ないが、このパターンのおかげで金田一はこれ以降何不自由なく事件の現場にも立ち会う事ができるし捜査に協力することができる特権を手に入れる事になる。

 ところで「車井戸は軋る」は、「犬神家の一族」でも使われた入れ替わりのトリックがある。「車井戸」の方が発表は先だから、「犬神家…」で再び入れ替わりのトリックを採用したと言った方がいいだろう。もちろん趣向は同じでもトリック自体は別物だ。それともうひとつアガサ・クリスティの有名な作品のトリックを趣向として取り入れているとも言えるような気がする。もちろんそのままではないのだが、今は亡き事件関係者の手紙という一人称記述が、まさにクリスティ作品の趣向そのままである。

 「黒猫亭事件」の方は、顔のない死体というこれまたミステリーではおなじみの題材を横溝正史なりに意外性をもたせたトリックを物語に組み込んでいる。もちろん今となっては素朴な仕掛けではあるが、そこはそれ著者の事だから、終戦後の世相をうまく取り入れた物語として読んだ方が面白い。

 さて今回の読書は角川文庫を片手に読んだわけではない。片手にもっているのは携帯である。角川の「文庫読み放題」というサイトで金田一の主要作品が読めるため、まずは「本陣…」から読み始めた。時間はかかったが結構読めるものだ。時間がかかったのは単に図書館で借りる本の方が優先になってしまい、時間をおいてしまったからだ。なれれば読むことに支障はないが、挿入された図を見るときは不便だ。一頁の図は6枚の画像に分割される。非常に見にくい。そこさえ解決されれば、携帯で読めるメリットは少なくないだろう。
(2006年3月7日読了)


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posted by アスラン at 04:32| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして、めとろんと申します。

クイーン、そして横溝ということでアンテナがピピッ!と来てしまいました。
「車井戸は何故軋る」、大好きな作品です!当然、「本陣」目当てに同書を購入したわけですが、この作品の短いながらもしっとりとして、哀歓ある結末に感動した覚えがあります。
「で…?」が忘れられません。
本陣は、「本格のエッセンス」のみ、という所がいさぎよい傑作と思うのですが、今読むと中編くらいのボリュームで、物足りなさは否めませんよね。却って、TVドラマ「横溝正史シリーズ」の、一柳の母をめぐる愛憎劇を書き込んだ脚本の方が説得力を感じさせますね。
では、またオジャマさせていただきます!

めとLOG 〜ミステリー映画の世界
Posted by めとろん at 2006年06月02日 07:58
めとろんさん、コメントどうもありがとう。

テレビドラマの「本陣」から小説の「本陣」へ。そして「車井戸」にたどり着くというところは、なかなか素晴らしいですね。僕も「本陣」のドラマの素晴らしさについては同感です。あの当時のTBS版「横溝正史シリーズ」はおおむねどれもこれもよくて、特にあの「本陣」の描き方がなければその後に横溝ファンになっていたかどうか。本当に幸せなドラマでした。
Posted by アスラン at 2006年06月11日 14:00
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