2010年05月11日

無限記憶 ロバート・チャールズ・ウイルスン(2009/11/12読了)

 前作「時間封鎖」に引き続き、全三部作の2作目にあたる。前作の感想にも書いたが、「Web本の雑誌」文庫班のアマチュア書評者たちが揃って星五ツをつけるという快挙をなし遂げた本だと知って、苦手なSFだということも顧みずに読んで、返り討ちにあいそうになった。面白い面白くないの二択であれば確かに「面白い」を選択するが、留保がないわけではない。

 まず地球だけが時間的にシールドされて地球外の宇宙が数千億倍(だったかな?)の速さで時間が経過していくという現象の原理が、さっぱりわからなかった。いや、SFなんだから原理もへったくれもないのだが、正直なところ本文での描写や説明に、僕のようなSF門外漢はついていけないのだ。

 それだけでなく、ときおりはさまる散文調の文章がさらに追い打ちを掛けるように僕をとまどわせる。着想は面白いのだが、上巻の終わりまでこないとあっと言わせるようなことはほとんど起きない。天空では驚くべきことが起こっているというのに、人間は〈ドン亀〉のような現実を生きなければならない。そのもどかしさを描くかのように、謎の核心を押し隠したまま前半は退屈にすぎていく。

 対して後半は、本の雑誌の書評者たちがそろって絶賛したようにグイグイと読ませるが、なにしろ三部作という事もあって「大きな謎」は先延ばしにされる。人類には、未知の知的生命(後に「仮定体」と名付けられる)によって新しい世界が与えられるところで第一作は終わった。生き延びた主人公たちは新たなフロンティアへと船出するが、決して明るい未来が感じられる結末ではなかった。

 今回は、主人公となる少年と、彼に会いに来る老女との物語で幕があく。唐突に地球的規模で怪しげな雨が降り出す。いきなり謎の核心から物語は進行する。前作と違ってよけいな意匠がない分、ストーリーに集中できるので登場人物に感情移入しやすいと言える。分かりやすくなった反面、話の展開が小粒になった感がしないでもないが、それは虫のいい望みだろう。SFの門外漢にも分かりやすいに越したことはないのだ。

 少年は実は単なる人間ではなく、〈第四世代〉と呼ばれる「延命処置を施された人間」たちによって特別に造られた生命であり、その存在は仮定体が人類の記憶を共有するための、言わばネットワークの一部であるというのが、本作のキーである。この設定が僕らを驚かせないのは、神にも似た地球外生命体が人類をなんらかの形で監視あるいは管理するというモチーフを、ある有名な映画でずいぶん以前から共有してきたからだ。

 スタンリー・キューブリックの名作「2001年宇宙の旅」以降、SFファンだけでなく映画ファンにもおなじみのモチーフだが、本書の著者は、そこに21世紀らしく「ネットワーク」という概念を持ち込んだとしても、さして目新しいとは言えない。では仮定体は人類になにを期待しているのだろう。あるいは、仮定体には人類など存在していないのか。

 またしても「大きな謎」は先送りされる。パート3で完結する一つ前のストーリー展開とは得てしてこういったものだろう。じれったエンディングではあるが、まだ本国でも上梓されていないという第三部に期待するだけだ。
posted by アスラン at 12:45| 東京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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