2010年03月23日

名前探しの放課後 辻村深月(2010/1/12読了)

 昔「ザ・ガードマン」というドラマがあった。若き日の宇津井健が警備会社のキャップを務める群像劇で、ガードマンであるにもかかわらず事件への関わり方は刑事ドラマとそう変わらない。強いて言うと、当時大流行していた「キイハンター」のように特別な捜査機関という印象だった。
 
 なぜこんな話を枕にするかと言うと、そのストーリーが単純に犯人が分かって捕まえるという展開でない事が多く、どんでん返しに次ぐどんでん返しをクライマックスに持ってくるのがお約束だったのだ。今から考えると、海外ドラマ「スパイ大作戦」(これは映画「ミッション・インポッシブル」のオリジナル)からの影響があったのだろう。今どき、こんなドラマはちょっとお目にかからない。あぁ、「ライアーゲーム」が、ややそういう雰囲気があるかもしれないが、「ザ・ガードマン」の場合は、高々ラスト10分程度で、どんでん返しが2回続くというムチャな事を平気でやっていた。

 こういうことを書くのは、本作にもそう思わせるような展開が待ち受けているからだ。これ以上はネタバレになるので書けないし、書きたくない。もちろん未読の人の楽しみを奪いたくはないからだが、その上であえて言うと、決してどんでん返しが用意されていなくても、この作品は素晴らしい。辻村作品の不思議なところは、ミステリーとしての〈謎解き〉がクライマックスを彩るにもかかわらず、必ずしもそういったミステリーの要素が作品に不可欠だとは思わせないほどに、結末に至るまでのストーリーがとってもいいのだ。

 特に今回は、主人公が高校生の男女二人になっていて、それぞれの視点から自分の事、互いの事、周囲の友人の事、あるいは身近な家族の事、これからの事などをすべて盛り込みつつ、日常のいたるところで待ち受けている陥穽をいかにして避けていくかというところにフォーカスをあてて、丁寧に二人の心象を描いていく。

 恋人ではない。むしろ何事かなければ好き合うことなど決してなかっただろう二人が、あることをきっかけに互いに気に掛ける存在となる。いや、一緒に行動せざるをえない関係となる。「あること」とは、男子が6ヶ月ほど過去にタイムリープしたことによって、誰かが期末最終日に自殺するという信じがたい「ごく未来の事件」を前もって知ってしまうことだ。二人は頼れる仲間を増やして、なんとかその未来を阻止しようとする。

 こう書くと「SFじゃないか」と敬遠する人もいるかもしれないが、事態はSFのように展開していくわけではない。彼の言う事をどこまで信じるかは棚上げしたまま、集まった仲間は近未来で彼が体験してきたと言う〈事件〉が万が一にも起きてしまう事がイヤで、協力して「誰か」を探し出す。最初は分からなかった「誰か」が、同級生からいじめをうけている同学年の男子生徒だと判明すると、彼をいじめから救い出すことで自殺という最悪の事態を回避させようと、彼と積極的にかかわっていく。

 この小説の良いところは一言でいうと「ぼくのメジャースプーン」や「凍りのくじら」で目立った辻村作品特有の弱点が目立たない点にある。この2作(残念ながら本書を合わせて3冊しか読んでないのだが)では、主人公であり語り手でもある一人の人間がきわめてナーバスに自らの心象を捉えていく。しかも、彼あるいは彼女には人間に対する独特な距離感があり、終始その距離感を測ることに文章の多くが費やされる。

 とくに「凍りのくじら」では、敬愛する藤子不二雄が好んで用いていたという〈SF(少し不思議)〉というテンプレートを当てはめることで、周囲の人たちに次々とラベル付けしてゆく。それは身勝手で人を侮る思い上がった行為である事に、主人公の女子高生はなかなか気づけない。もちろん、彼女の「気づけない性格」がとんでもない事態を引き寄せてしまうところがストーリーの核心なので、そこにいちゃもんを付ける気はないのだが、あまりに無防備すぎるところにストーリーを優先するあまりの構成上の弱さを感じた。

 一方、本作では一人の人間を救うという目的のために、超党派で集まった男女たちの様々な思惑が交錯することで、互いの身勝手さはすぐに他の人たちから丸裸にされてしまう。とくに主人公を男女2名にしたことによって、お互いに身勝手なものさしで測ることが許されないと、互いに気づいていくところがとってもいい。要するに、作者のこれまでのお約束からははみ出して、次第に人間が描けてきていると言う感じがする。

 著者は、ごく最近の直木賞の最終候補に残った。それだけ人物や情景などの描写に立体的な厚みが出てきたという事だろう。そろそろブレイクする頃合いかもしれない。
posted by アスラン at 19:48| 東京 ☀| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ミステリー小説 おもしろいですね
こちらの作品 まだ 読んだことないです
どちらかいうと私は  リアル 社会派の小説がスキカナァ?おもしろければ なんでも
読みます。小説同好会(名前検討中
キイハンターで プログ 検索中です。今 動画で キイハンターを視聴しています。東京パノラママンボーイズカッコいいですね。刑事ドラマ同好会(名前検討中
動画 時どき 3年前のとか 見れなくなりますね。
昨夜 千葉真一で 動画 検索して 千葉ちゃんの歌 映画予告 ジャワカレーの宣伝
カリーナの宣伝など 見ました。懐かしいですね。谷隼人さんも 大人気でしたね。
ウェーブで キイハンターで 検索して
ウィキィペディアなど 見て レギュラー出演者など 見るのも 好きです。
キイハンターの画像も おもしろいですね。
Posted by 謎の三文字☆村石太&風間洋介&コピー星人 at 2012年06月23日 21:45
謎の三文字☆村石太&風間洋介&コピー星人さん、コメントありがとう。
(ずいぶん長いネームですね。)

キイハンターが動画で視られる時代なんですね。びっくりです。

 当時小学生だったのですが、特別に見せてもらっていたように思います。大人向けの内容だったけれど、どうしても面白くてやめられませんでした。

 一番下っ端の大川栄子さんがアイドル的な存在でかわいらしかった。彼女が今ブックオフの宣伝で、素敵なおばさんになって登場します。感慨深いです。
Posted by アスラン at 2012年07月04日 12:58
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