2010年02月16日

ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 J.K.ローリング(2009/9/28読了,再々々読)

 基本的にハリー・ポッター全7巻は、順番に読んでいかなければ話の繋がりが見えなくなるし、面白みも半減してしまうかもしれない。だから、まず何から読むべきかと言えば、迷うことなく第一巻「賢者の石」になるだろう。この一冊だけで、その後の展開をさして意識しないでも単独で楽しめる。それは、この時点で思い入れのあるキャラクターがまだ誰もいないせいでもある。後戻り可能で、気楽な楽しみ方ができる。

 でも、次に一冊だけ選べと言われたら、こちらも迷うことなく本作「アズカバンの囚人」を選ぶ。これに同意してくれる人は多いのではないだろうか。それくらいストーリー展開にほころびがなく、かつ充実している。魅力的な登場人物が多いことも理由の一つだし、この作品で良くも悪くもハリーの未来に待ち受けているものが姿を現してくるという事も指摘しておこう。本書を読んでしまったら、もう後戻りはできない。読者はひたすら結末へと突き進むだけだ。

 この第3巻で主要な登場人物がでそろう。その意味でも前半のピークとなる作品で、作者の作品に対する意気込みが感じられる。多くのエピソードがこれでもかこれでもかと詰め込まれ、ありがちな中だるみがほとんどない。最後の主要な人物と言えば、もちろん〈アズカバンの囚人〉であるシリウス・ブラックだ。ハリーポッターの宿敵ヴォルデモート卿側につき、ハリーの両親を裏切って死に追いやったブラックは、囚人となるが脱走し、ハリーの前に忍び寄る。その理由はいったい何なのか?ブラックの登場はハリーの運命を大きく変えていくこととなる。

 ハリーは第一巻では文字通り何者でもない弱々しい存在だったが、本作の冒頭から、少年少女が成長期の過程に見せるイライラを募らせ、思わず禁じられた魔法を使って、虐げられるばかりのダーズリー家を飛び出す。なんと家出してしまうのだ。夜のバスに乗るハリーの姿は、不安と心細さにとまどう典型的な家出少年そのものだ。

 そして、結局は何事もなかったかのように新学期が始まる。しかし3年生にはホグズミート村に行くことが許される特典が待っているが、保護者(ダーズリー)の許可が得られないハリーは行くことができない。この設定から、様々なストーリー上の起伏が生まれる。まずは、かつてのいたずら4人組が作った「忍びの地図」だ。この地図と透明マントと秘密の抜け穴を利用した無断外泊が、ハリーたちに思うぬトラブルをもたらす。さらには最後の最後にホグズミート村への許可を手に入れるという幸せな結末へと繋がる。ひとつの仕掛けからいくつもの伏線が生み出され、しかも冗長さが感じられないのが、本書の特長だ。

 しかも、このエピソードは作品のほんの一部でしかない。前作では、クィディッチの試合で落下させられ、ロックハート先生のせいで、折れた腕の骨まで失うという惨事にみまわれ、いいところがなかったハリーだが、今回はゲームの中心人物として大活躍を見せる。しかし、クィディッチというスポーツが、単に試練を乗り越えるエピソードとして盛り込まれているだけではなく、当然ながら本筋の伏線にもなっている。すなわち、吸魂鬼の前で動きがとれなくなってしまうハリーが、試合に支障がでないように守護霊を発動する魔法を会得するという展開である。これはのちのちヴォルデモート卿との戦いに活きてくるのだ。

 こうして一つ一つ見ていくとキリがない。ここまで書いてきてようやく良い言葉を思いついた。今回のハリーポッターは単なるファンタジーではなく、上質なミステリーとなっている。あらゆる登場人物や物や生きもの、それに起った出来事はほとんど無駄なものがなく、それが最後の最後に一つのパズルとして組み立てられていく。例えば黒い犬、例えばロン・ウィーズリーの鼠(スキャバーズ)、例えばハーマイオニーの飼い猫、例えば忍びの地図、例えばハグリットの先生就任そして解任そしてドラゴンのヒッポグリフの処刑などなど。これらがすべて伏線である以上、どうしたって最初から最後まで物語の緊迫感は続いていく。中だるみが少ないのも納得できる。

 最後にもう一言だけ言っておこう。ラストでびっくり仰天の結末が待っているが、そこにはSFではおなじみの手続きが利用されている。これまた「えぇぇぇぇ!」と何でもありのファンタジーのずるさを感じてしまう読者もいるかもしれない。正直ぼくも意表を突かれた。

 だが、ここまでやってこそ、盛りだくさんの今回のストーリーを潔く締めくくる事ができた。実は、これからの作品では〈大きな謎〉をほのめかしながら〈謎解き〉は先送りされるため、読者は当分の間フラストレーションがたまる読書を強いられる事になる。今回のようにスカッとした終わり方は当分お預けという事になるだろう。
posted by アスラン at 19:49| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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