2010年01月29日

Another 綾辻行人(2010/1/16読了)

 ノベルスではなく最初から立派で頑丈そうな装丁だ。まるであの「霧越邸殺人事件」の初出時を思わせる。読みごたえのある内容を期待させる本だ。表紙には、かなり荒削りな野生を感じさせる得体の知れない少年(少女?)の中性的に顔が見きれるように描かれている。借りた本を無造作にテーブルに置いておいたら、妻に不気味だから片付けるようにと言われてしまった。たしかに何事か不穏な雰囲気をただよわせている肖像画だ。

 書店で見つけたときに、ぱらぱらと最初の数ページを斜め読みした限りでは、作者の「囁き」シリーズの延長線上にくる作品かと思った。括弧でくくられた内面の囁き(独白)が多用されるところなどが、一見するとそっくりだったのだ。そのつもりで楽しみに読み出したが、すぐにそんな〈身構え〉を解いてしまった。あのオカルト物の緊張感は今回の冒頭には感じられない。語り手がまだ幼い小学生であることも、そしてかなりおさないしゃべり方をするところにも、まずは拍子抜けしてしまった。

 妙にませている少年には、今この町で起きていることがスティーブン・キングの「呪われた町」で描かれていた出来事そのものではないかと疑うだけの書肆的知識がある。単なるホラー好きの少年だと割り切るまえに、見た目は少年でも単に作者・綾辻行人自身なのではないかという思いが最後までつきまとった。

 綾辻と言えば、妻で仕事上のパートナーでもある小野不由美の「屍鬼を思い出さずにはいられない。あの作品も「呪われた町」にリスペクトした作品で、舞台を日本の田舎町に移し替え、思いっきり冒頭から僕ら読者の不安をかきたて、そのまま中盤まで恐怖が尽きる事がなかった。

 一方、本書では体が弛緩したかのように緊張感が最初から全く感じられない。小学生の視点で貫かれているとは言っても、さきほど述べたように作者の視線が小学生のそれと二重化されているので、どちらかというと設定だけをキングの作品からいただいて、田舎町を舞台に据え、あとは何事かおきるだろう(なんとかなるだろう)と待ちかまえている感じがした。だが、正直言って、最後まで何も起らない(ように僕は感じる。)

 言わば、名探偵コナンのように「見かけが少年で中味が青年」という設定で押すのなら理解できるが、たしかに少年の心性を持ち、少年としての過剰な好奇心も怯えも、粗忽ささえも持ち合わせているというのに、妙なところで思慮深かったりする。そのアンバランスさが、作品のトーンを微妙な感じに染めてしまう。

 「屍鬼」であれば作品を通して一貫して恐怖体験に身をゆだねられる分かりやすさがあったが、本書では「隣り合わせに存在する多すぎる死」に身をゆだねようとすると、すぐに作者の、あるいは少年の関心は目の前の〈死〉ではなく、本格ミステリーのお約束である、死にまとわりつくコード(暗号)探しの方に行ってしまう。一体、このぬるい緊張感はなんなのだろう。
posted by アスラン at 12:56| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。