2010年01月28日

告白 湊かなえ(2010/1/20読了)

 そもそも、口コミや書評で、処女作にもかかわらず人気があり、ミステリー好きには好評だったのが、本屋大賞を受賞したことで一気に全国区へと躍り出た。作品そのものの話題性もさることながら、やはり本屋大賞自体が大きな賞に育った結果と考えた方がいいだろう。

 こんな、やっかみめいた事を書くには理由がある。なにしろ立川図書館で250人待ち、川崎市の図書館にいたっては、なんと1500人待ちというべらぼうな状況を見据えての言いぐさだと思って欲しい。こういうときの対処法としては、一年ぐらいはほとぼりをさますパターンかなと思っていた。下手に予約してしまうと、予約できる本の数が目減りしてしまうし、いつもいつも予約リストで目についてしまうので気になってしまう。とりあえず忘れてしまうに限る。まあ、是が非でも読みたいというモチベーションがあるわけでもなかったし。ただ、僕のミーハー心がムズムズして、なかなか収まらないだけなのだ。

 会社最寄りの商店街にある古本屋で500円で見つけてしまった。この時期にしては、なかなかお手頃な価格ではないか。思わず105円文庫数冊と一緒に購入してしまった。

 さて読み出すと…。ふーむ。ちょっと意外だなぁ。読みやすくないぞ。「告白」というタイトルだから、そういう手紙なり手記なりを中心に物語が展開するであろうとは予想していた。が、最初から最後まで話体で書かれているとは思わなかった。いわば漱石の「こころ」のような、ぜんぶが告白体の体裁なのだが、するすると読みやすいのかと言えば漱石の足下にも及ばない。まあ、漱石と比べられたら誰だって迷惑な話だろうが、とにかく先へ先へと読みたくなるような、引きこまれるような文章ではない。

 ただ、だらだらと、その上「うっとうしい話」が続く。もちろん、そこには作者の戦略があって、女教師の生徒たちへの一方的な告白は、あっと言わせる落とし穴が待ち受けている。あっと言わせる内容は何かというと、「真犯人がだれで、どう推理できるか」などというようなミステリーとしての興味ではなく、教師然とした女性が、次第に抑えてきた感情を爆発させて、ある「醜い行為」にまでひそかに仕立て上げていった事を暴露するというオチになっている。

 もちろんここで、教師の幼い娘の死に荷担した生徒二人は、断罪されてもいいと思う人もいるだろうし、やはり教師のしたことは行き過ぎだと憤慨する人もいるだろう。しかし、なによりも女教師の決着のつけ方に、ミステリーの多種多様な手際があり得るにもかかわらず、ああいうスキャンダラスな方法を用いた事に、もっと読者が悪感情を示さないのが、僕には不思議だ。特に200人から1500人にものぼる人たちの多くは、ただ単に面白い本を期待してむらがっているはずなのだから。

 「若気の至り」という言葉があるように、まだ長編一作目にすぎない本作で、著者の筆がすべったと見過ごす事も、最初の章(あるいは、連作の最初の短編)だけに見られる欠点であれば、可能であったように思う。ところが、続く章では語り手となる人間が教師を引き継いで別の登場人物になるだけで、そこに描かれる人間描写も告白する語り手の心理描写も紋切り型で、きまった共通する特徴が現れるとなれば、これはもう工夫が足りないと指摘するだけではすまない。作者の品性、あるいはモラルといったものが問われる事になる。

 それは、一言で言えば「侮り」だ。人間の心を見透かすような告白者の語りが続き、一人の話者が、ただ単に他の人物たちをひたすら貶める言動ばかりが目に付く。もちろん、告白体であるからには、偏った主観で人間の醜悪な本性を表現するのは、真実を伝えるてっとりばやい方法であることに一理あるが、なぜか最初の告白者から最後の告白者にいたるまで、人間へのまなざしはあけすけで実もフタもない。まるで女性誌に掲載されたゴシップ記事そのものだ。

 後味も悪いが、毎回同じ展開に落ち着く連作に途中で飽きてしまった。
posted by アスラン at 13:01| 東京 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめてコメントさせていただきます。
やっぱり待機人数半端じゃないんですね。
私も確か半年位前に、1Q84と同じ頃予約したんですが、1Q84はとっくに読み終わってるのにこれはまだ順番が回ってきません。みんな読みづらくて進まないのでしょうか?(笑)
後味悪いですか、、迷いますね^^;



Posted by 福生から at 2010年01月29日 15:36
「福生から」さん、コメントありがとう。

「1Q84」やハリーポッターのように、人気ではあるがある程度行列の長さが読めるものは、リターンも大きいので納得できるのですが、この本の行列の長さは尋常じゃないですね。

「後味の悪さ」は僕の主観なので、「オススメしない」とまでは言いません。誰がなんと言っても自分が読みたいものを読めばいいんです。

一言かきそびれた事を作者のために書くとすると、一本調子の告白の中にミスディレクションを誘う仕掛けをいくつも仕込んでいるので、そういうトリッキーなところだけを面白がれる人には〈絶賛〉されるかもしれません。
Posted by アスラン at 2010年01月30日 12:18
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