2010年01月21日

SF本の雑誌 本の雑誌編集部・編(2010/1/2読了)

 2010年最初の読了本が、本の雑誌社が出したSF愛好家向けの、このムックだ。以前からきになっていたのだが、SFファンでもないので買うほどのこだわりはない。だけど読んでみたい。図書館ではこの手の本はなかなかすぐには蔵書にならないので、じれていた。久々に思い出して検索をかけると、川崎市図書館の蔵書になっていたので年末に借りた。

 僕にとってはかなり手つかずのジャンルであるSF小説の代表作を読んでみようかなぁと、なんどかトライしたことはあるのだが、なかなか続かない。要はよくわからんのだ。面白さが伝わらないという事もあるが、なんとなくこれをおさえておけば、ジャンルの全体像が見えてくる、あるいは「SFを読んだぞ!」という達成感が得られる、ような読書体験を期待してるのだけれど、ずぶずぶと深みにはまって出てこられなくなるか、はたまた門前払いをくらわされるかのいずれかで、どうも相性が良くない。

 そこらへんのことを踏まえて、初心者に優しいSFガイドブックを期待して本書を読むと、これがまあなんというか、大きく裏切られる。もちろん、この本がビギナーズ向けの本ではないというSFファンの主張はあるだろうから、そこのところは目をつむってもらって、以下の感想を聞いてもらうしかないのだけれど、とにかくSFというのはビギナーにやさしくないジャンルだということをまず言いたい。

 僕は「本の雑誌」を毎号購読していた時期があるからわかるのだけれど、SF読みの批評家たちのコラムでかまびすしく議論されていたのは、「これはSFではない、あれこそSFだ」というSFのボーダー論なのだ。これって何故必要なのか、いまだにわからない。SFってそんなに境界線の引き方にこだわらないと自壊してしまうような、脆弱なジャンルだったのだろうか?

 これをミステリー好きの立場からうがって考えてみよう。20年ぐらい前に新本格ミステリーというカテゴリーの分類される作品と若手作家が多数出現した。このとき、「『新本格』は本格ミステリーではない」という議論は批評家だけでなく読者からも多数意見がでたように思う。だが「『新本格』はミステリーではない」という意見は皆無だったと思う。

 では、「ミステリー」というジャンルは限りなく拡散していき、謎を提示してそれを解決する小説はすべてミステリーになってしまうかと言えば、そんな事はない。SFは相変わらずSFのままであって、ミステリーとは一線を画している。明確なボーダーがあるかと問われれば、そんなものはない。ないにも関わらず、ミステリー好きはSFを読まないし、SF好きはミステリーを読まない。もし読んだとしたら、それはミステリーでもあるし、SFでもある。それだけのことだ。きちんとした線引きにどんな意味があるのだ。

 しかし、事はそれほど簡単にすむ問題ではないらしい。なぜならば、SFというジャンルは今まさに「消滅」しようとしているからのようだ。SFというジャンルは儲からないというのが業界の定説になっている。SFの月刊誌などは次々に休刊し、SF作家は発表の場を限定されつつあり、編集部からはSF以外のものを求められるという状況が何年も続いているそうだ。なんとなく書店にいくと平積みのSFが目立つ印象があるのだが、海外物は別にして国内の出版ではSFとあからさまに銘を打っている本は、確かに少ないかもしれない。

 そういう存亡の危機に、批評家や愛好家たちが選択したのが「SFとはなんぞや」という〈ジャンルとしてのSF〉の確立というのは納得しがたいが、理解はできる。自らの線引きをしたうえで、ジャンルに入ってきた作品を評価し、喧伝し、盛り立てていこうという段取りだろうから。

 でも「鶏が先か、卵が先か」の議論があるとおり、物事を静止したかたちで把握しようとしても、矛盾は拡大するばかりではないだろうか。例えば「『フランケンシュタイン』はロマンス小説だからランキングには入れない」のであれば、いったいメアリー夫人の「フランケンシュタイン」を愛してやまない読者の意見を、だれが擁護すべきなのだろうか?SF好きで「フランケンシュタイン」も好き。だったら、そのときだけミステリー愛好家やゴシックロマン小説愛好家のサロンに顔を出して、存分に思いの丈をぶちまけて帰ってきてください、とでも言うのだろうか。

 ・「夏の扉」「幼年期の終わり」「火星年代記」が一位を争うランキングは作らない。

 これはよくわかる。ミステリーで言えば、いつまでもクイーン、クリスティーではないだろう。もっと今の読者が喜ぶランキングを作ろうとあえて〈縛り〉を設ける事に、僕だって異論はない。だが、そこで用いられる縛り、というか定規がいかなるものかが重要だ。SF好きは、さぞ論理的な定規を用いるのかと思えばさにあらず。かなり奇妙な独善がはびこっているように思える。

 ・ロマンス小説は除外
 ・ファンタジーは除外
 ・「リーダビリティ」を考慮(って何?ひょっとして読みやすさの事?)
 ・シミュレーション小説はダメ(たんなる好き嫌いでないのか)

極めつけは、
 ・SFとはセンス・オブ・ワンダー(をえがいたもの)だ。
という、なにやら不思議なおまじない。作品をSFのジャンル内に許容するためのおまじない、いわば免罪符に過ぎないのではないか。

 もっとわかりやすい初心者向けのSFを紹介してくれと思うのは僕ばかりではない。なんと北上次郎さんも同じような希望をSF評論家の大森望との対談でもちかけている。それに対する回答は「あなた(北上)は初心者じゃないじゃないですか」だった。要するに、やはりビギナーに優しくない、という印象だった。もちろん北上さん(目黒考二さん)はSFもミステリーもなんでもかんでも読んでいるから、いまさら初心者にもわかるSFを教えろと言って、未読の面白SFを紹介するのは難事業だろうけど…。

 例えば「この10年のSFはみんなクズだ!」(1997年3月号掲載)を読むと、刺激的なタイトルほどは過激な事は言ってはいないのだが、問題は対談の二人が挙げた「この十年で読むべき10冊」というリストの重なりが1冊しかない(「バベルの薫り」)点だ。SF読みの専門家が顔をつきあわせて、この有様ならば、確かに「クズだ」という主張にも一理あるのかもしれない。

 ただし、僕にはそのようなSF愛好者の課題を引き受ける了見はない。ただ、北上さんと同じように気楽に楽しめるSFを見繕って欲しいだけだ。というわけで、この本でやってくれないのなら自分でやってしまおう。

 冒頭に「本の雑誌が選ぶSFオールタイムベスト100」という企画がある。ではベスト10だけ書きとめて1位から読めばいいのかというと、そうではない。どうやらさきほどの「縛り」や「定規」をSFマニア向けに設定してあるようで、100冊選ぶからベスト10はここいらでいいやという手ごころが感じられる。100冊でSFのベストを選ぶと考えればいいのは、ウェルズの「タイムマシン」を最初に100位に入れた事でも予想できる。本の雑誌の年間ベスト10の順位の決め方に似たところがある。で、全部見て、SF本の雑誌の別の記事で絶賛されていたりした本を思い出しながら、それに以前から読んでみたかったタイトルなどを足しながら、拾い上げたのが以下のリストだ。

1.万物理論 イーガン
2.ソラリス レム
3.マイナス・ゼロ 広瀬正
4.故郷から一〇〇〇〇光年 ティプトリー
5.虚航船団 筒井康隆(読了済み)
6.虎よ!虎よ! ベスター
7.ユービック ディック
8.ハイペリオン四部作 シモンズ
9.十二国記 小野不由美(もちろん読了。新作マ・ダ・カ…)
10.百億の昼と千億の夜 光瀬龍(読了済み。初心者向きでないネ)
11.火星年代記 ブラッドベリ(図書館のリサイクル本でゲット)
100.タイムマシン ウェルズ
16.虐殺器官 伊藤計劃
19.ストーカー ストルガツキー(兄弟かな?)
71.タイムリープ 高畑
43.ニューロマンサー ギブスン
66.涼宮ハルヒの憂鬱 谷川流
37.犬は勘定に入れません ウィリス
番外
 復活の日 小松左京


全部読むヒマはもちろんないけれど、とりあえず「万物理論」や「涼宮ハルヒ」あたりから始めようか。
posted by アスラン at 19:56| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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