2009年12月28日

塗仏の宴 宴の支度 京極夏彦(2009/8/13読了,再読)

 この作品は非常に変わっている。内容が、というよりも、内容以前にいろいろと言いたい事がある。まずは1000頁越えは当たり前になった「箱本」書きの著者にしてはめずらしく、1000頁満たない作品だ。シリーズの完成度のピークに到達した「鉄鼠の檻」が1300頁の大作だったと記憶するから、今後は枚数を抑えめにする意図があるのかと思いきや、読んでみると一冊で作品が終わらない事が判明する。次作「塗仏の宴 宴の始末」と二冊あわせて作品として完結するのだから、今回の「塗仏の宴」全二巻がシリーズ最長作品という事になる。

 なのにもかかわらず、上下巻としなかったから、さぞかしノベルス出版時に購入した読者はヤキモキしたに違いない。

「宴の支度」(1998年3月)
「宴の始末」(1998年9月)

にそれぞれ出版されているから、まじめな読者は半年も待たされた事になる。もう古い話になるが、「バック・トゥー・ザ・フューチャーPART2」を見にいった会社の同僚が、エンディングの後にパート3の予告を見て、「なんじゃこりゃ〜」と観客全員がぶっとんだという話をしてくれたのを思い出す。最近では、今年9月に終わった「仮面ライダーディケイド」の最終回が記憶に新しい。あれも見事に裏切られた。今上映している劇場版こそが本当の最終回だったなんて。

 本書の最後でも読者はぶっとんだろう。というか、京極堂の解決だけでも優に数百頁を費やすのが当たり前の本シリーズに慣れ親しんでる読者は、もっと前の方で「これは終わらないなぁ」と思って呆れているはずだ。

 また、本書では「塗仏」がメインとなる妖怪のはずだが、それ以外に章立てごとに妖怪が一匹ずつ割り当てられている。これは、オムニバスの短編集とまったく同じ構成なのだが、ストーリーとしては連作のように繋がっている。さらに驚いたことに、奇数章の「ぬっぺっぽう」「ひょうすべ」「しょうけら」は、雑誌「小説現代」(あるいは別冊メフィスト)に既に掲載され、偶数章の「うわん」「わいら」「おとろし」は書き下ろし作品となっている。

 普通に考えれば、奇数章が先に書かれ、あとで偶数章を書き足して、一冊にまとめたのであろうが、そんなことが果たして可能なのか?

 いやいや、またしても順番が違っている。

「ひょうすべ」(1997年9月)
「しょうけら」(1997年12月)
「ぬっぺっぽう」(1998年2月)


という順番で掲載されている。翌3月には「宴の支度」が出版されているわけだから、「ぬっぺっぽう」は限りなく書き下ろしに近い。すでに完成稿ができあがっていて、急遽前宣伝のために駆け込みで冒頭の一章が掲載されたようだ。

 では本当の始まりは「ひょうすべ」という事になる。しかし、当然ながら本書の始まり「ぬっぺっぽう」で描かれる衝撃的なオープニングは、既に準備されている。「ひょうすべ」のP.462には、「ひと月半後、私は逮捕されたのだ」と、さりげなく書かれている。もちろん、この「私」とは関口巽(たつみ)の事だ。

 この予想もしなかった展開に初読の際にはかなり度肝を抜かれたが、きちんと京極作品を追い掛けているファンにとっては、折り込み済みの展開だったわけだ。いや、ひょっとして雑誌掲載時の「ひょうすべ」には、この「逮捕」の件はなかったのかもしれない。まるで記憶を操作される物語さながらに、こちらの思いこみも著者が先回りして誘導しているかのようだ。

 そもそも、シリーズ中もっとも登場人物が多い本作では、複数の物語が同時進行で描かれる。もちろん互いに無関係だとは最初から思えない。なぜなら、怪しげな宗教団体や宗教人が至るところで暗躍するからだ。一言で言えば、「宗教が多すぎる」というのが率直な感触だ。ここには何か怪しげな企みが存在する。前作「絡新婦の理」のモチーフを超えるような壮大な「操り」が背後に感じられる。しかし、本作はタイトル通り「支度」だけが延々と描かれ、企みが成就するまでには至らない。「お楽しみはこれから」というわけだ。

 さきほど僕はオープニングに驚かされ、熱心なファンはすでに知らされていて驚かされなかったのように書いたが、真のサプライズは本作のとりあえずのエンディングに用意されている。そして、毎回毎回すんでのところで「壊れる」手前で、京極堂の周到な手際で引き戻されてきた関口は、ついに自我が「崩壊」する。そこで用意された企みとは、著者の思いきりの良いカードさばきから繰り出されるとっておきの切り札だ。

 本作を読み切って、今回の作品がなみなみならぬ「悪意」に満ちている事を、あらためて僕ら読者は思い知らされるのである。
posted by アスラン at 13:13| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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