2009年12月25日

キスまでの距離 おいしいコーヒーのいれ方1 村山由佳(2009/8/5読了)

 石田衣良のラブストーリー「眠れぬ真珠」を新潮社のケータイ書籍サイトの連載で読み終わったとき、著者の男目線で書かれてあるにもかかわらず、更年期を迎えた女性を主人公に据えた真っ向勝負のラブストーリーに気恥ずかしさを覚えた。身も心も年下の男に溺れる大人の恋愛を描き、おそらくは女性の読者を想定してだろう、男性の身勝手な性をあえて禁じ手にしたラブストーリーは、体の結びつきをしっかり描いてはいるがプラトニックな恋愛小説としか思えなかった。

 そして、ここに長きにわたってシリーズとなり、つい最近第1シーズンが完結した、もう一つの真っ向勝負のラブストーリーがある。その第一作を読んでみると、「気恥ずかしい」のレベルを超えて、主人公の一人・かれん以上に顔が真っ赤になってしまいそうだ。1994年に出版されたという本作は、高校三年生の勝利(ショーリ)と、いとこであり5歳年上であり、勝利の高校の新任美術教師でもあるかれんとの、純情なラブストーリーだ。

 今年「ダブル・ファンタジー」を上梓した著者・村山由佳は、これまでに多くの女性ファンが望むようなピュアでまじめな恋愛小説をひたすら描いてきた。彼女らの期待にこたえるのに疲れてきたのか、あるいはもっと違ったものを書きたいという作家としての欲が書かせたのか。かなり本人としては冒険した、大人の恋愛小説として好評を博した。らしい。

 僕はこの人の作品を本書以外に1冊しか読んだ事がない。その1冊、「星々の舟」を読んで、かなりの筆力をもった作家だと感じたが、そのベースには、本シリーズのような、言わばラフスケッチのような習作が書き継がれる事を必要としたに違いない。

 もちろん、この「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズが、10年以上の歳月を費やして10作もの連作を形づくるためには、本作のようにエンディングに至ってようやくキスまで辿り着くという、タイトル通りの高校生のような恋愛を成就するまでを丹念にスケッチするところから始めねばならなかった。嘘みたいだが、このように恋愛のワンステップワンステップを一段ずつ踏み上がっていくラブストーリーは、ありそうでなかなかない。著者の野心と粘り強さがあればこその物語だろう。

 さて、もちろん、本作が僕にとって気恥ずかしいのは、今どきの高校生でもこんなにウブな恋愛はしないだろうという、未熟な男の子の恋を描いているからではない。高校生以下の純情さの持ち主は、勝利の方ではなく大人の女性のはずのかれんの方だからこそ、気恥ずかしいのだ。

 こういう本を好んで読む女性たちの中に、僕のような無粋な野郎が入ってゆく居心地の悪さがある。嫌いではないストーリー展開なので尚更だ。それは、江國香織の女のためだけにあるストーリーのようには身勝手さが感じられない分、居心地の悪さは格別なものがある。

 さて、ではこのシリーズを僕は続けて読むべきだろうか?物語は始まってしまったのだ。
posted by アスラン at 12:57| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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