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    2009年12月04日

    鉄塔武蔵野線ウォーク(インターミッション2〜74号結界にて〜)

     見晴は74号鉄塔の結界から、森の向こうに姿を隠した次の鉄塔に思いを馳せながら、
    そのときわたしに閃いたのは、これらの鉄塔をずっと辿って行けば、やがては1号鉄塔に行き着くのだということでした。(P.50)

    と、初めて武蔵野線を1号鉄塔までたどる冒険を現実化する。そして1号鉄塔の先には「原子力発電所」が待ち受けているはずだと、空想をかきたてている。この「発見」を共有してもらいたくて、遊び仲間で年下のアキラの家に向かう。

     アキラの家がどこにあるのかは、小説にほとんど手がかりがない。「サッカーボールをは小刻みにドリブルしながら取って返しました。」(P.52)と書かれているので、見晴の家と同じ75ー1号鉄塔の西側にあると考えるのが妥当なところだが、さてどうだろう。

     アキラの家は「櫟林(くぬぎばやし)」に隣接した一軒家で、門や鎧戸、庭、屋外駐車場がある。この記念すべき「発見の日」に、アキラは田舎に帰省していて留守で、見晴はあらためて出直すことになる。数日後に再度訪れたときには「櫟林の家」と表現している。残念ながら櫟を主体とした雑木林かどうかは、航空写真では判別できない。どれもこれも同じに見える。

     この〈発見の日〉の午後、残りの時間を見晴は、結界に埋めるメダルを王冠で作り、ポケットに詰めて再び外出する。「鉄塔の結界に記念品を埋めてこよう…!」(P.54)という思いつきなのだが、これがアキラと結成する事になる鉄塔探検隊のお約束の一つとなる。

     すべてのはじまりの75−1号鉄塔は、見晴の身長の2倍はある柵で囲まれている。ここを見晴は「胴貫材」に足をかけて、やすやすと乗り越える。ここの描写は、メダルを結界に投げ込む最初の場面なので、読者が躓かないようにあっさりと書かれているが、実は二つの点で、僕ら読者を立ち止まらせるポイントがある。

     ひとつは、75−1号鉄塔が香田変電所の構内にあるという事実だ。これまでも、そしてこれからもそうだが、見晴は一度たりとも変電所構内に立ち入る事はない。早く言えば「不法侵入」だし、構内の職員に見つかる危険性がきわめて高い行為だからだが、この75−1号鉄塔については、あたかも構内ではないかのように、見晴に結界の柵を乗り越えさせている。

     もうひとつは、すでに気づいている読者は多いと思うが、語り手である見晴が「柵の横に張られた鉄材」を「胴貫材(どうぬきざい)」という専門用語で呼称している点だ。いったい、見晴はそんな言葉をどうして知っているのだろう。そういうマニアックな少年だと言い切る事も可能だが、要するに語り手は見晴自身ではなく著者だと考えるべきだ。つまりこの小説では、実際に著者が見て歩いてきたルポルタージュと、小説としてのファンタジーとが不分明なまま、同時的な視点で書かれている。

     もちろん、見晴が大人に成長した時点から子供の頃の自分を振り返って語るという体裁をとっている事は、本書の冒頭の一文から明らかではある。
     あれは199X年の夏でしたから、もうずいぶん昔のことになります。(P5)

     ところが不思議なことに、この小説が初めて新潮社から出版されたのが1997年だから、語り手の「わたし」は、2009年現在よりもさらに未来のどこかで、この物語を語っていることになり、そうだとすると一種の近未来小説と言えなくもない。

     ただ、もっとも正しい解釈は、199X年の夏に取材した著者が、小学5年生の見晴の目と肉体を借りて、ルポルタージュと物語とを同時進行させたかったと見るべきだろう。

     75−1号から順に、終点の81号鉄塔まで、メダルを結界に置いてゆく見晴だが、お約束のもうひとつとして、結界のちょうど中心、すなわち頭上を見上げて鉄塔の先端が形作る×印が、ちょうど真ん中でクロスする位置の真下にメダルを埋める。しかし、このお約束は、「結界」という言葉が文字通り「人を近づけない領域」であると物語っているように、今後の見晴たちの前に大きな障害となって立ちはだかる。

     80号鉄塔では金網で囲まれている結界に、人目が多すぎて入るのに勇気がいったり、当然なことではあるが、終点の81号鉄塔がまたしても変電所構内にあるために、立ち入る事が許されず、結界の中にメダルを投げ入れるだけで、自らを納得させるしかない。

     とにもかくにも、75−1号から南側にのびる武蔵野線をすべて踏査した見晴は、いよいよ隊員一名をともなって、未踏の一号鉄塔を目指す事になる。
    鉄塔武蔵野線ウォーク8.JPG
    posted by アスラン at 13:02| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 鉄塔武蔵野線 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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