2009年11月28日

女について 佐藤正午(2009/6/18読了)

 1991年に講談社文庫から「恋売ります」というタイトルで出版され、その10年後に「女について」と改題されて光文社文庫から出版された。このタイトルの変化だけ見ても、出版社の売り方に違いが出ていて面白い。講談社文庫の方は短編のタイトルをそのまま本のタイトルにしただけで、短編集にはよくあるネーミングの方法に過ぎないのかもしれない。だが、明らかに20〜30代の独身OLをピンポイントにターゲットにした売り方が透けてみえる。

 一方で光文社文庫の方は、もうちょっと幅広い層の女性にも読んでもらおうとしている。あえて無色で抽象的なタイトルを選び直していることからも、一見して明らかだろう。いや、「女について」という語感からして恋にうつつを抜かす女性の物語ではなく、〈女の剥き出しのエロス〉や〈女という生き方〉をスケッチしている短編集だと読者に知らしめようとしている。さらに言えば、その「女」を、つかず離れず絶妙の距離感から眺めている男の存在が感じとれるタイトルでもある。そこには光文社文庫らしく、男性の読者に抵抗なく手にとってもらうための配慮が感じられる。

 どちらが良いかは別にして、光文社文庫の方が派手さはないが内容を言い当てたタイトルだと言える。おそらくはタイトルと内容のギャップに対する見定めが出来てなかったからこそ、たかだか10年足らずで講談社文庫は本書を絶版にして、光文社文庫に譲り渡す事になったのだろう。

 前々から書いてきたが、佐藤正午の魅力は決してありきたりな「恋愛小説の達人」などというところにはなく、自堕落で身勝手なありのままの男を描く、そう言ってしまえば「ダメ男小説の達人」なのであって、それでいて〈ダメ男が何故か気になる女性〉にアピールする小説を書く達人でもある。そうでなければ、水商売の女性からいきなり嘔吐物を掛けられるのがきっかけの物語や、高校からの悪友が淋病にかかった事から始まる物語を、まだ酸いも甘いも区別がつかない20代の女性が好んで読むわけがない。

 こう書くと下世話な物語ばかりが集められた短編集なのかと誤解されるかもしれない。いや、正直、「ソフトクリームを舐める女について」というタイトルの短編が含まれているのだから、下世話な題材をあえて著者が選んでいる事は確かなのだけれども、そこから見事なほど洒落て後味のよいオチへと読者を誘ってくれる。

 で、最後に僕が言う事は、洒落てはいないがお決まりの文句になる。佐藤正午は文章の達人だ、と。
posted by アスラン at 04:08| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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