80号結界から見る次の鉄塔は変則型でした。中段の腕金が長く伸びて、電線を妙な方向へ折り曲げています。(P.32)
見晴が鉄塔の形から予感するように、次の鉄塔が武蔵野線の終点になる。暑さでくじけかけた心を奮い立たせて、見晴は次の鉄塔へとむかう。「住宅地を紆余曲折し、汗が流れるに任せて行きつ戻りつし」(P.32)とあるように、上空からの拡大写真を見ても、なかなかどこを通ればいいのか、路地が入り組んでいてわかりにくい。電線だけをたよりに鉄塔めぐりを続ける鉄塔ウォーカーにとっては、立て込んだ民家ほどやっかいなエリアはないだろう。
(A地点)
漸くのことで変則型鉄塔への近道となりそうな狭い雑木林を見出しました。(P.33〜34)
この雑木林は共有地になっているのか、通り抜けできそうだ。とくに金網などで閉ざされてはいない。雑木林の南側に大きな畑が広がっているせいか、次の鉄塔方向の視界がひらけているので、見晴は「樹々の間」(P.34)から、終点の鉄塔のみならず「複数基の変則型鉄塔」(P.34)の姿を見出している。舗装路から雑木林を斜めに縦断して「普通の道路」(P.34)に抜け出る。
この道をまっすぐ行くと「小さな交差点」があり、その先に武蔵野変電所(小説では「櫛流変電所」(P.37))が姿を現す。
(B地点)
ちょうどよいことに交差点近くの空地の奥まで行けば、碍子鉄骨地帯を塀越しながら至近距離で垣間見ることができます。(P.34)
ストリートビューは、この交差点手前で終わっていて、航空写真の拡大でも詳しい事は分からないが、現在は空き地ではなく、隣接するアパートの駐車場になっているようだ。ただし、駐車場を奥まで行けば、確かに塀越しの鉄塔を見る事は可能だ。見晴はともかくも、僕がやったら怪しい侵入者になってしまいそうだが…。
終点の鉄塔は81号鉄塔だが、変電所内にある81号鉄塔には案内板はなく「徹底的に無愛想」(P.34)だと見晴は独りごちる。受け取ってきた電線をここで変電所に降ろすので「引留(ひきどめ)鉄塔」とも呼称している。「如何なる場所なのか正確には知りませんでした」(P.34)と見晴が言う変電所を、僕らも見晴以上に正しく理解しているわけではない。見晴が「巨大な碍子と鉄骨の組み合わさった絢爛たる構造物」(P.34)に魅せられるように、僕も街中に整然と立っている不思議な幾何学の構造物をじっくりと見てしまう。
変電所は美術館、博物館同様に清潔で、「ゴミなど1つも落ちておらず人の姿もない」(P.35)
こんな場所を心ゆくまで散歩できたら、どんなに楽しいだろう」(P.36)
これが、太陽が西へ沈みかけている夕刻に、暑さも忘れて鉄塔を見入っている見晴の正直な気持ちだ。この少年の気持ちにあなたはシンクロする事ができるだろうか?もし出来るならば、あなたも立派な鉄塔ウォーカーだ。これから始まる本格的な鉄塔探索の旅に、一緒に出ようではないか。



