2009年08月24日

天使と悪魔 ダン・ブラウン(2009/6/4読了)

 先日、撮りだめしておいた「ダヴィンチ・コード」をようやく観た。いや、主人公の二人が最後の目的地にたどり着き、三世紀にもわたる謎がいままさに解明されるところまできて、子供が風呂からあがってきてしまい、続きはまた今度になったままだった。そうなのだ。せっかくの映画を観るヒマがないので、3倍速(という言葉は今や死語か?)で早送りしながら筋を追っていくという見方で、あっという間に2時間半を超える大作を見終えようとしていた。

 と、ここまで書いて、この書評の文章も寝かしておく間に、映画の残りもようやく見終える事ができた。映画の感想からすると、ルーブル美術館の許可をもらって撮影したというダヴィンチの絵画のシーンはあっという間に過ぎ去ってしまうし、そもそもロケとセットの映像を組み合わせてメインストーリーは進行するので(だって、床に血痕をまき散らしたり、ブラックライトを当てると館長が残した暗号が浮かび上がるなどの演出がルーブルの中でできるわけがないではないか)、わざわざルーブルで撮影許可をもらうまでの事は無用のような気がした。

 一つの象徴的なオブジェであるルーブル美術館前に建てられたピラミッドにしても、ロケかと思えば、シームレスにスーパーリアルなCGと繋がっていく。だとするならば、ロケなどしなくていいと文句もいいたくなる。それほど全編にわたって、いらぬCGが挿入される。

 肝心のミステリーの方は隙だらけ。ストーリーをとばしまくって、あれよあれよと自由時間が無くなってしまう詰め込み過ぎのバスツアーのようだ。思いっきり消化不良をおこしてしまった。

 さて、小説の話をしよう。「天使と悪魔」は、原作で言うと「ダヴィンチ・コード」の前作にあたる。この作者ダン・ブラウンは、「ダヴィンチ・コード」の冒頭でも、作品の中で言及したことはすべて事実だと主張して、読者を最初から煙に巻いていたが、それは本作から踏襲された慣習だったようだ。

 スイスにあるセルンというヨーロッパ最大(いや、世界最大)のBファクトリー(加速器)がある最新の研究施設内で、地球上では未だかつて存在しない「反物質」が一科学者の手で作られる。このセルンという組織には「国際的な利権と陰謀が渦巻いている」と著者は描いているが、例えセルンでの最先端の研究が将来的に「利権」を生じる事が予想されるとしても、「陰謀が渦巻いている」などと人間の暗部をのぞき込むような描き方は誇張以外の何物でもない。

 ここは、単に、世界的に名の知れたイルミナティという秘密結社が今なお現実に存在し、活動しているという事にリアリティを与えたいがために、著者は明らかな嘘をついている。セルンについてちょっとでも正しい知識を持っている人にとってはバカ話で済むのだが、セルンを知らない人にとっては罪作りな話ではないか。こういうところにお手軽なミステリーツアの原点を見た気がする。

 ところで「ダヴィンチ・コード」よりも「天使と悪魔」の方が面白いという評判が存在した。現に両方とも読んだという会社の同僚も、「天使と悪魔」の方に軍配を上げていた。僕はどっちだろう。どっちでもいい。「ダヴィンチコード」の方が、取り上げられた絵画に馴染みがあった。今回の作品はちょっと馴染みが薄い分だけ、読み手を惹きつけない。一方で、ヨハネ・パウロ2世が法王の選出された時に一躍話題になった「コンクラーベ」という選挙がストーリーの中心に据えられているところに惹きつけられた読者は多かっただろう。

 いずれにしろ、僕はどっちでもいい。途中までは割と面白いが、最後まで関心を引っ張る謎ではなかったという感じがした。特に、やはり「反物質」の扱いが荒唐無稽で、それは「ダヴィンチコード」の時のフィボナッチ数列や黄金比などの使われ方よりも粗雑でばかばかしく、少なくとも理系の人間にとっては、トンデモ本の箱に直行させるべきだと考えるたくなるだろう。

  
posted by アスラン at 20:03| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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