著者の積年の執念が実って、ファンタジーノベルス大賞受賞当時のオリジナル原稿どおりに、武蔵野線の全鉄塔のすべての写真を掲載した作品がソフトバンク文庫から刊行され、僕らは著者が表現したかった「鉄塔という世界観」をまるごと玩味できるようになった。しかも添付された鉄塔武蔵野線MAPで、著者と作中の少年・見晴がたどった武蔵野線の道程に思いを馳せる事もできた。
一方で物足りなさもあった。添付のマップは武蔵野線全鉄塔の大まかは位置関係や距離は把握する役にはたつが、実際に畑の植物や森をかき分けたり、障害となる様々な人家や建物、道路や鉄道、そして川などの障害物を生々しく実感する事は不可能だ。もちろんそんな事は小説の本文から読んで想像を補えば十分ではないかと言う人もいるかもしれない。でもそうではないのだ。
この小説の、いや、このファンタジー小説は、現実の「鉄塔 武蔵野線」と、小説の中の「鉄塔 武蔵野線」が同一でありながら、やはりそこに描かれている鉄塔の世界は、少年のひと夏の記憶の中にしかない仮想現実、ワンダフルワールドでしかない、という二重化したところが面白いのだ。となれば、究極は見晴や著者のように武蔵野線全鉄塔をたどるしかないのだが、それはさすがに時間も体力が許さない。なにより、少年というパスポートを失っているという現実が許してくれはしない。
ならば、せめて可能な限り現実の鉄塔と小説の鉄塔との境界線上で疑似体験したい。昨年考えたのは、きちんとした地図を見ながら、どの経路を見晴が通ったのかを考えながら、小説を読もうという思いつきだった。しかもGoogleでは地図に重なるように航空写真が公開されていたので、これを武蔵野線に沿って縮尺を大きくして印刷しておけば、小説に添えられた鉄塔の写真と合わせて、見晴の体験が立体的になるのではないか。そんなことを考えながら昨年の夏は終わり、なんの準備もないまま今年も夏を迎えた。
今年は天候が不順なせいで思いの外、夏らしい夏がやってこない。その間に「鉄塔 武蔵野線のたどり方」を考えた。
[使うもの]
(a)鉄塔武蔵野線MAP(ソフトバンク文庫「鉄塔武蔵野線」添付)
(b)鉄塔武蔵野線MAPと重なる実際の地図
(c)Googleの地図
(d)Googleの地図(航空写真)
(e)新旧鉄塔番号対照表(ソフトバンク文庫「鉄塔武蔵野線」の巻末)
[たどる前の心得]
鉄塔そのものの様子は、ソフトバンク文庫版に挿入された写真で確認する事が基本なので、今現在の各鉄塔の様子をGoogleのストリートビューを用いて確認することはしない。確かに、これからやろうとすることは、発表当時(1994年)の鉄塔の様子を閉じこめた写真と、15年後の2009年現在の鉄塔周辺の風景をつぎはぎするというムリな試みを承知でやろうとしている。その上で小説に封じ込められた鉄塔武蔵野線をできる限り幻視したい。
著者・銀林みのるの解説によると、鉄塔は絶えず形を変えていくものであり、その意味では今現在の鉄塔の写真は、今回の「鉄塔武蔵野線をたどる旅」にとって不可欠なものとは言えない。鉄塔は、月日を経ると違う線の一部になってしまうこともしばしばだ。従って、発表当時の「鉄塔 武蔵野線」はすでに存在しない。だが鉄塔そのものが解体されて姿を消す事はほとんどないという前提で、今回の資料作りを行っていく。
[たどり方]
(a)のMAPと同位置の地図を(b)からコピーして、(a)の鉄塔武蔵野線を(b)の地図にトレースする。このとき、(e)を使えば各鉄塔のある住所のおおよそが分かる(番地はないが町名までは対照表に書かれている)。また(d)の航空写真を参考にすれば、ある程度の鉄塔の位置の詳細が分かるかもしれない。これらを丹念に調べる事で、鉄塔の位置をある程度確定する。
(c)の地図を拡大印刷して、さきほど調べた鉄塔の位置を書き入れる。また、できれば同じ位置同じ縮尺の航空写真を印刷する。
と、ここまで考えて(a)〜(e)をそろえた。いきなり躓いてしまった。(a)の「鉄塔武蔵野線MAP」の鉄塔位置がおおざっぱすぎて、それよりも拡大された地図上に鉄塔の位置をトレースする事が出来ないのだ。せっかく実際の地図のコピーを用意したが、そこから手詰まりになった。それにたとえば鉄塔の位置がトレースできたとしても、どうやら(c)の地図を印刷して、鉄塔の位置を書き込みまでに手順と労力がかかり過ぎるようだ。
ではどうしたらいいのだろう?実は話はもっと単純だったのだ。鉄塔は、(4)の航空写真に写っているのだ。




私は自宅近くの鉄塔に「橋本線」という名前を見つけて、「この送電線が橋本までつながっているんだ」ということから、送電線鉄塔ウォークをしています。
中年の趣味と健康維持です。
おススメします。
送電線鉄塔ウォーク、楽しそうですね。
僕が本文で「時間も体力も許してくれない」と書いたのは、もっか4歳児の子育てで手一杯だからです。もう少し子どもが親離れしてくれたら、考えてみます。
それから「少年というパスポートを失っている」と書いたのも、蛇足ながら解説すると、まさか小説の見晴のように畑やゴルフコースを突っ切ったり、結界と称する鉄塔の真下に金網を乗り越えて入り込むなどということは「叶えられない」ということを指しています。