2009年07月12日

「ナツイチ2009」VS「ナツイチ2008」

[表紙]
 イメージキャラクターが変わりました、それも思いっきり。蒼井優から少年と少女にバトンタッチ。岡田将生と山下リオの初々しいカップルの誕生だ。これによって、ナツイチのコンセプトが昨年の「世界を変えよう」という大それた意気込みから、一気にスタートラインに引き戻された。今年は「はじまり。」がテーマ。実はなんとなく角川文庫の〈旅〉と呼応している。

「行き先はまだ分からないけれど。」

ほら、やっぱり〈自分探しの旅〉が始まるのだ。夏の文庫フェアの王道だね。
  ナツイチ2009.jpg  ナツイチ2008小冊子.JPG

[目次]
 目次も、昨年のジャンル名から「恋したい」「笑いたい」などのタイづくしに変わった。あれ?なんとなく角川の目次(「楽しむ」「見つける」など)と似てきたね。

[スペシャルカバー]
 スペシャルカバーは今年も健在だ。名作×人気漫画家のコラボという趣向も昨年と同じだが、コラボの顔ぶれが一新された。

(2009年)
地獄変(芥川竜之介×久保帯人)
堕落論(坂口安吾×久保帯人)
走れメロス(太宰治×許斐剛)
人間失格(太宰治×小畑健)
こころ(夏目漱石×小畑健)


(2008年)
地獄変(芥川竜之介×小畑健)
人間失格(太宰治×小畑健)
こころ(夏目漱石×小畑健)
伊豆の踊子(川端康成×荒木飛呂彦)
汚れつちまつた悲しみに…(中原中也×武田弘幸)

 今年のカバーについても、昨年同様あまりコメントすることができない。どの漫画家もなじみがないからだ。久保帯人はアニメでもおなじみの「ブリーチ」を、許斐はやはりアニメで有名な「テニスの王子様」を描いた漫画家だそうだ。なるほど、今年の「メロス」は気持ちを込めて走っている。込めすぎてメロスじゃないみたいだ。とりあえず言えることは、このカバーでは僕は読みたくない。ただしターゲットの10代、20代ならばカバーが名作のハードルを乗り越えさせてくれるかもしれない。

 今年のラインナップだが、全部で97冊、新しく入った本が70冊、昨年と変わらなかった本が27冊だ。いつもながら、ナツイチの入れ替え率は7割を越える。ものすごい変更だ。

[躍進した作家]
太宰治(1->2.5)
関口尚(1->2.5)
三崎亜記(1->2.5)
池上彰(1->2)
小路幸也(1->2)

[後退した作家]
浅田次郎(4->1)
村山由佳(4->2)
唯川恵(3->2)
芥川龍之介(2->1.5)
江國香織(2->1)
乙一(3->2)
蒲田實(2->1)
北方謙三(2->1)


 ナツイチの躍進組筆頭は太宰治だ。もちろん生誕百年を意識して、昨年までの「人間失格」だけでなく「走れメロス」の方も、漫画家によるスペシャルカバーに大変身。スペースも昨年の1.5倍になって半ページを割いている。ただし、角川文庫ほど徹底した企画ではない。「走れメロス」も「人間失格」も記念年でなくてもスペシャルカバーになりそうな作品だとも言えるからだ。

 太宰と並んで躍進を遂げたのは関口尚と三崎亜記。この二人は小説すばる新人賞の第15回と第17回をそれぞれ受賞している。言ってみれば集英社はえぬきのホープだ。ベテラン勢の石田衣良と東野圭吾が3冊からさらに3.5冊へと躍進して、意気盛んなところを見せつけている。

 一方、後退組で目立つのは浅田次郎だ。4冊から1冊への大後退。もっとも昨年の4冊が何故か「闇の花道」という作品の第一巻〜第四巻を一挙掲載という不自然なフィーチャーだったので、今年は例年並みにもどったとも言える。次点が村山由佳だ。昨年は「おいしいコーヒーのいれ方」が完結したのを受けての大盤振る舞いだった。こちらも例年並みにもどった。「おいしいコーヒー…」は第二シーズンに突入。まるで海外ドラマだね。

 それにしても、村山由佳、唯川恵、江國香織など女流恋愛小説の達人たちが、そろって後退の憂き目にあっている。躍進組に女性が一人もいないことと関係があるかもしれない。

 新しく入った作家 33名
 今年消えた作家 28名

[新しく入った作家(注目)]

伊坂幸太郎
吉田修一
天童荒太
開高健
北杜夫
広瀬正


 吉田修一(初恋温泉)や伊坂幸太郎(終末のフール)は初登場だ。ここでも女性作家よりも圧倒的に男性作家が元気だ。躍進組の関口尚、三崎亜記などとあわせると、女性のお株であった恋愛小説を若い男性作家が奪っている現状があるのかもしれない。そのうえ、今年は開高健や北杜夫などのベテラン男性作家による不滅の名作が入っているのも影響しているかもしれない。

[レイアウト]
 イメージキャラクターが入れ替わって、テーマがスタートラインに差し戻されたと書いたが、これが形だけでない証拠に、ターゲットとなる読者層を若返らせる工夫をしてきた。キャッチコピーも解説もほとんど書き改められた。どこがどう変わったのか、なかなかうまく説明できないけれど、たしかに変わっているのだ。 それを小路幸也「東京バンドワゴン」を例にとって、昨年と今年を比較してみよう。表紙の写真サイズが小さくなった。昨年が一昨年よりもひとまわり大きくなったと記憶しているから、元に戻したわけだ。表紙の位置が中央からタイトル脇の右寄りにもどった。コピーは3行から2行に減り、簡潔な表現に変わった。

(2008年)東京下町の古本屋。ちょっとワケあり家族のほのぼの物語
(2009年)東京下町の古本屋。ちょっとワケあり大家族の大騒動

字数をけずったせいで、〈ちょっとワケあり〉なコピーになった。

 解説は、フォントが一まわり小さくなり、16字×8行から17字×8行にやや増えた。そこで文の見直しの要が生じたというわけだ。
(2008年)「伝説のロッカー」で金髪の60歳になる我南人、その息子でフリーライターの紺、もう一人の息子で…旅行添乗員の青
(2009年)60歳にして金髪、伝説のロッカー我南人。画家で未婚の母藍子。年中女性トラブルを抱えている…青。


 2008年の解説がもたついているのは明らかだ。「その息子で」「もう一人の息子で」のように、何が何でも家族構成を説明しようとして、無駄な文字を費やしている。今年は思い切って我南人、母、青の3人に絞っている。主人公と青との関係は見えてこないが、続く文章から「一つ屋根の下」で暮らす家族である事はわかる。

 今年の最大の変更点は、昨年までの「ポイント!」でキーワードを列挙するコーナーをやめて、読者2名の一言感想に変えた点だ。編集部のお仕着せのキーワードよりも、時に素直な、時に意外な読者の一言の方が共感できる。日頃はあまり本を読まない人にも役立つ企画だ。

[解説]

 今年の解説の特徴について、もうちょっと詳しく見ていこう。少し「説明的」になったと同時に、抽象的な表現は「具体的」に分かりやすく書き直している。やはり、ターゲットの年齢層を下げた事からくる配慮だろう。

娼年 石田衣良
 (2008年)魅惑的な大人の女性に出会い、踏み込んだ禁断の世界
 (2009年)ふとしたきっかけでボーイズクラブで働くことになる

泳ぐのに、安全でも適切でもありません 江國香織
 (2008年)どこかに満ち足りない哀しさを抱きつつも、潔く恋に生きる
 (2009年)安全でも適切でもない人生のなかで、でも恋愛にだけはためらわず、強く深く生きた…

蛇にピアス 金原ひとみ
 (2008年)「スプリットタン」に魅せられ、自らも舌にピアスを入れるルイ
 (2009年)蛇のように割れた舌「スプリットタン」。ピアスを入れて舌を割る身体改造の一種である。


[小説すばる]
天使の卵 村山由佳(第6回すばる新人賞)
プリズムの夏 関口尚(第15回すばる新人賞)
笑う招き猫 山本幸也(第16回すばる新人賞)
となり町戦争 三崎亜記(第17回すばる新人賞)
蛇にピアス 金原ひとみ(第27回すばる文学賞)
漢方小説 中島たい子(第28回すばる文学賞)
夏と花火と私の死体 乙一(第6回ジャンプ・小説ノンフィクション大賞)


 小説すばるは集英社が出している文芸誌だ。たいてい賞を取った作品は「○○受賞作」と銘打つ事が多いが、今年は「すばる」の文字が目立つ。 なるほど村上由佳の待遇がいいのは、すばる新人賞作家だったからだ。今年はなんとこのベテラン作家の新人賞受賞作が入った。いったい何年前の作品だろう。息が長い恋愛小説だなあ。また、乙一の作品は「すばる」ではないが、少年マンガ誌ジャンプが主催した賞を取っていた。あわせて6冊。昨年は「蛇にピアス」「となり町戦争」「漢方小説」の三冊だけだったので、今年は倍増した。これが何を意味するのか、僕にはよく分からない。たんなる偶然?そうかも?それとも自社の文芸誌の救済かなぁ。

 よくは分からないけれど、一つ言えるのは、この6冊で一番最近の受賞作だと思われる「漢方小説」の今年のコピーがとってもいい。ベストコピー賞をあげよう。

漢方小説 中島たい子
 (2008年)仕事も、恋愛もなんとなく疲れちゃった。そんなときの処方箋。
 (2009年)みのり、31歳、独身。漢方薬がじわじわ効く。


[今年新たに入った本(67冊)]
グリーンライン 赤川次郎
王妃の館(上・下) 浅田次郎
はるがいったら 飛鳥井千砂
生れ出づる悩み 有島武郎
そうだったのか!日本現代史 池上彰
終末のフール 伊坂幸太郎
幕末遊撃隊 池波正太郎
エンジェル 石田衣良
イチローイズム 石田雄太
ベーコン 井上荒野
父親 遠藤周作
犬のしっぽを撫でながら 小川洋子
東京物語 奥田英朗
ZOO(1、2) 乙一
エンド・ゲーム 常野物語 恩田陸
オーパ! 開高健
翼はいつまでも 川上健一
船乗りクプクプの冒険 北杜夫
漂泊の牙 熊谷達也
無伴奏 小池真理子
「心の掃除」の上手い人 下手な人 斎藤茂太
堕落論 坂口安吾
もものかんづめ さくらももこ
まる子だった さくらももこ
王妃の離婚 佐藤賢一
続・岳物語 椎名誠
ローマから日本が見える 塩野七生
桜さがし 柴田よしき
君に届け 下川香苗
シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン 小路幸也
プリズムの夏 関口尚
空をつかむまで 関口尚
わたしの源氏物語 瀬戸内寂聴
走れメロス 太宰治
男をトリコにする 恋セオリー39 蝶々・伊東明
あふれた愛 天童荒太
夜の朝顔 豊島ミホ
悪党たちは千里を走る 貫井徳郎
こちら救命センター 浜辺祐一
救命センター当直日誌 浜辺祐一
トーキョー国盗り物語 林真理子
おれは非情勤 東野圭吾
幻夜 東野圭吾
精神科ER―緊急救命室 備瀬哲弘
マイナス・ゼロ 広瀬正
僕は運動おんち 枡野浩一
バスジャック 三崎亜記
焚火の終わり(上・下) 宮本輝
蜂蜜色の瞳 おいしいコーヒーのいれ方 Second Season Ι 村山由佳
天使の卵 エンジェルス・エッグ 村山由佳
姉の結婚 群ようこ
漫画版 世界の歴史1 本村凌二
永遠の出口 森絵都
雷神の筒 山本兼一
落花流水 山本文緒
笑う招き猫 山本幸久
肩ごしの恋人 唯川恵
彼女の嫌いな彼女 唯川恵
初恋温泉 吉田修一
子供の領分 吉行淳之介
バスルームから気合いを込めて ジャネット・イヴァノヴィッチ
十五少年漂流記 ジュール・ヴェルヌ
荒野へ ジョン・クラカワー
存在の耐えられない軽さ ミラン・クンデラ
蠅の王 ウィリアム・ゴールディング
ジェイン・エア シャーロット・ブロンテ
日はまた昇る アーネスト・ヘミングウェイ


[今年消えた本(68冊)]
秘密のひととき 赤川次郎
河童 芥川龍之介
天切り松 闇がたり第一巻 闇の花道  浅田次郎
天切り松 闇がたり第二巻 残侠  浅田次郎
天切り松 闇がたり第三巻 初湯千両  浅田次郎
天切り松 闇がたり第四巻 昭和侠盗伝  浅田次郎
愛がいない部屋  石田衣良
桑田真澄 ピッチャーズバイブル  石田雄太
実戦!恋愛倶楽部 一条ゆかり
薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木  江國香織
「話して考える」と「書いて考える」  大江健三郎
真夜中のマーチ  奥田英朗
暗黒童話 乙一
平面いぬ 乙一
ネバーランド  恩田陸
がんばらない  鎌田實
うわさの神仏  加門七海
伊豆の踊子  川端康成
危険な夏  北方謙三
オシムの言葉  木村元彦
I'm sorry,mama.  桐野夏生
相剋の森  熊谷達也
瑠璃の森 小池真理子
さくら日和 さくらももこ
のほほん絵日記 さくらももこ
オリンピア ナチスの森で  沢木耕太郎
ハーケンと夏みかん  椎名誠
がばいばあちゃん  島田洋七
花より男子ファイナル  下川香苗
君に舞い降りる白  関口尚
M8 エムエイト 高嶋哲夫
怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道  高野秀行
ハナシがちがう 田中啓文
小悪魔な女になる方法  蝶々
チェ・ゲバラの遙かな旅  戸井十月
ジャージの二人 長嶋有
僕に踏まれた町と僕が踏まれた町  中島らも
汚れちつまつた悲しみに…  中原中也
落ちこぼれてエベレスト 野口健
フレフレ少女  橋本裕志
救命センターからの手紙  浜辺祐一
救命センター部長ファイル  浜辺祐一
葡萄物語  林真理子
黒笑小説  東野圭吾
分身  東野圭吾
ひろさちやのゆうゆう人生論  ひろさちや
いじめの光景  保坂展人
ショートソング 枡野浩一
家、家にあらず  松井今朝子
GO−ONE  松樹剛史
朱夏(上)(下)  宮尾登美子
青のフェルマータ  村山由佳
海を抱く  村山由佳
天使の梯子  村山由佳
夢のあとさき おいしいコーヒーのいれ方X  村山由佳
ショート・トリップ  森絵都
はなうた日和  山本幸久
愛には少し足りない  唯川恵
キスよりもせつなく  唯川恵
今夜 誰のとなりで眠る  唯川恵
第三の時効 横山秀夫
源氏に愛された女たち  渡辺淳一
絵のない絵本  アンデルセン
カスに向かって撃て!  J.イヴァノヴィッチ
おばちゃまは飛び入りスパイ  D.ギルマン
風の影(上)(下)  C.R.サフォン
最後の銃弾  サンドラ・ブラウン
ザ・プレイ  A.ブレナン
posted by アスラン at 02:57| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 夏の文庫フェア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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