2009年02月23日

Yの悲劇(ポプラ社) エラリー・クイーン(2009/02/14読了)

 創元推理文庫の「エジプト十字架の謎(新版)」を読んで、本格ミステリーやクイーンのファンでなくても楽しめる一級のミステリーであったことを改めて思い知った。子供向けに児童書になることも多いのもうなづける気がした。すると僕も「エジプト十字架…」のジュブナイルでエラリー・クイーンと初めて出会っていたかも知れない。もしそうだったら、果たしてその後にクイーンフリークになり得ていただろうか。

 そう考えるのは、僕が初めてクイーンと出会ったのが「エジプト十字架…」ではなく「Yの悲劇」だったからだ。もちろん「Yの悲劇」は今でも単にクイーンの代表作というだけでなく本格ミステリーのベストテンの一位、二位を争うような名作だ。だから子供向けの本に翻案されていても不思議ではないのだが、「エジプト十字架…」のように子供向けにしやすい作品かどうかは疑問が残る。いや、自分が「Yの悲劇」のジュブナイル(当時はこんな洒落た言葉はまだなかったが)を読んでいて、ひとごとのように言うのはおかしいが、いったい自分の「Yの悲劇」体験がどんなものであったのかを、今に至るまで振り返った事がなかった。どうやら、そこから長きにわたるエラリー・クイーン作品への愛着の原点を振り返る時期が来たようだ。ぜひとも、あの小学生の時に読んだ「Yの悲劇」を読みたい。もう一度、あの運命的な出会いを追体験したい。そう思った。

 図書館を活用すれば、あの時の児童書を読むことは可能だと思った。でも、35年も昔の児童書を読むという思いつきは、そう簡単な事ではなかったようだ。立川と川崎の図書館で蔵書を検索すると、古い児童書の「Yの悲劇」のタイトルは出てきたが、いずれも1970年代のものではない。ポプラ社版は2004年出版で断然新しい。ただし改訂版だとある。ではそれ以前はいつ出されたのか。それもあった。1986年だ。それ以前の版があるのかないのはわからない。

 予想としては違うようだが、とりあえず立川図書館で予約した。窓口で受け取った本の装丁を見て「これは違うな」とはっきり分かった。探偵ドルリー・レーンがマントを付けた役者のような格好で違和感があるのと、表紙の色もイメージと違うな。中身を見てもグッとせまるところがなかった。やはり違ったか。ただ、このまま返しては惜しいので、結局は読んでみた。全体的にストーリーが圧縮されて優しい言葉で書き直されている。冒頭で海から引き揚げられた、形をとどめない死体の描写が子供向けにしては生々しくはあるが、これは本作の重要な導入部なので省略はできないのだろう。

 客観的に見ても、子供にとってはゴージャスなミステリーだろう。ダイジェストでも十分面白い。いや、さらに分かりやすい。当時、僕がこれを読んでも、魅力的な序盤の謎や、中盤の探偵の推理に魅せられるだろう。しかも怪しげな薬品に満ちた実験室があり、そこが犯人によって放火される。意外な動機、恐るべき犯人の正体。最後まで楽しませてくれる。

 大人の目から言わせてもらえば、中盤に初めて探偵ドルリー・レーンが重い口を開き、ハムレット荘を訪ねてきたサム警部たちに犯行現場の痕跡から緻密な推理をする場面は、レーンの一人語りになっていて、少々盛り上がりに欠ける。あの警察とのやり取りが一つの山場だからだ。また実験室の薬品棚の描写も原作に比べるとあっさりしていて、犯人を示す重要な伏線は語られていない。ただし、あくまで「大人の目」からのケチであって、ジュブナイル版としては問題ない。

 実は読んでいて、原作のストーリーにちょっとした疑問が浮かんだ。第三の犯行に使われる毒薬についての疑問なのだが、これについてはオリジナルの「Yの悲劇」を読んだ後で、あらためて書くことにしよう。それよりさきに角川文庫から出た「Xの悲劇」の新訳を読まねばならない。

 いやいや、それより先に、もうひとつのジュブナイル版「Yの悲劇」をなによりも読まなければ。なぜなら、こちらこそが僕のクイーン体験の原点であることが分かったからだ。それについては、また文章を改める事にしよう。

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posted by アスラン at 12:35| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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