2008年11月11日

消えた反物質−素粒子物理が解く宇宙進化の謎− 小林誠(2008/11/1読了)

 マイケル・クライトンが亡くなって、さて「お弔い読書」をしないとなと、古本屋に駆け込んで「アンドロメダ病原体」を見つけて購入した。230円だった。ちょっと高い気もしたがやむをえない。ついでに横にあった「猿の惑星」まで買ってしまった。いずれも僕が子供の頃に〈テレビの中の映画〉として記憶に残る作品の原作だ。

 それはともかくとして、お弔い代わりにその人の著作を読むのは少々浅はかではあるが、そうでもなければこの先一生読まずにすましてしまうかもしれないので、「チャンスは最大限に生かす」というどこかで聞いたようなせりふを座右に置いて、これからも続けたい。それもともかくとして、久々のノーベル賞受賞で沸いたブームのまっただなか、日本人物理学者3名の著作が売れだしているという記事をみかけた。ならばと立川の図書館で検索してみると、おお、一人が先んじている。たった一人?いえいえ、流行作家の新作でもなければ、ほとんどの蔵書が待たずに借りられる立川の図書館にしては、しかもこのコアな内容の本にしては珍しいことだ。負けてはなるものかと、さっそく本書と、

クォーク(第2版) 南部陽一郎(2008/10/26読了)

の2冊を予約した。あの「(受賞は)うれしくもなんともない」と啖呵をきった益川さんの著作も借りたかったが、岩波書店から出ている専門的な本以外は出てない。一番先に読んでみたかったので残念だ。今後の出版に期待しよう。

 借りてきた本を読む順番としては、小林さんが「南武先生の受賞がずっと先だと思ってた」とニュースで語っていたので、業績の内容としては「クォーク」の方が先かと思って読みだした。南部さんの文章は物理学者らしく理路整然としていて非常に読みやすい。しかもこの本では少々変わったアプローチをとっていて、最初にまずクォークの理論や発見の最前線に至るまでの道筋をざっとおさらいする。その部分は分かりやすい文章と相まって頭にすかっと入ってきた。

 概括すると、アインシュタインの相対性理論とハイゼンベルグやボーアが作り出した量子力学の先の研究で、素粒子(それ以上分割できない基本単位となる物質)の研究が進んでいく。これは一つには、物質どうしに働く力を統一する理論を研究することでもあり、同時に宇宙の発生の謎をさぐる壮大な探索の足がかりでもあった。そして結局、原子でもなく陽子でもない、もっと基本的な〈素粒子〉はクォークと呼ばれ、六つあることが理論づけられ、実験で証明された。そこへ至る道で、南部さんや小林・益川両氏の理論的アプローチが評価される事となる。

 だがしかし、きわめて難しい。ブルーバックスなので素人にもある程度分かりやすく書かれていると期待したのだが、甘かった。最初の概論はとても面白く読めたのだが、その後に最初から詳しく説明した本論にまったくついていけない。これに比べれば「量子力学」のなんと分かりやすかった事か。南部さんの本論は正しい記述にこだわるあまりに門外漢にはチンプンカンプンな記述へとズンズンと進んでいく。おかげでここにいる愚かな読者は、ドンドンと深みにハマって迷わされ、迷宮のど真ん中で一歩も進めなくなった。ついにギブアップ。悔しいので後半は飛ばし読みをしたが、何が分かったわけでもない。

 本書も読まずに返そうと思ったが、読み出してまたまたショック。こちらの本は数段読みやすい。その理由は何かと言えば、まず第一に、最先端の素粒子物理を正しく伝える事を著者が最初からあきらめている事にあると思う。どう考えても、どうやさしくかみ砕いても、結論から言えばクォークにまつわる理論は素人には分からない。量子力学で「光は粒子でもあり波でもある」という矛盾を納得するのはたやすくはないが素人にも乗り越え可能だった。しかし素粒子物理学で表現される物質は、もはや僕らの単純な直感を超えた存在だ。

 例えばクォークの特徴の一つにカラー(色)があるが、〈素粒子に色がある〉というのは単なる抽象的な概念で、そうでも言わないと電荷やパリティなどのように具体的な属性として定量化できないから便宜的に素粒子に〈色づけ〉をするという工夫を物理学者たちは持ち込んでいる。素人から言わせてもらえば、実験で証明される前の最先端の物理学では、ますます数学のように抽象的な思考を強いられる事になる。物理は実際の宇宙やミクロの世界と結びついているから、何故か僕のような素人でも理解できるかもと変な色気を持ってしまう。最先端の数学理論なんて手を出そうとも思わないのにだ。

 話を戻すと、小林さんは難しい事はすっとばしていいと言う。数式も使わないと体裁が整わないところに使ってはいるが、飛ばしてかまわないと書いてくれている。確かにすっとばしても話は繋がる。そもそも本当に素粒子物理学の手ほどきをしてもらうほど、こちらも頭はやわらかくない。さわりをつかみたい。その〈さわり〉をうまく塩梅して語ってくれるのが本書だ。もう一つ言えば、南部さんの時代よりも後の研究内容を前提にして書いた本書の方が、整然とした理論的説明をするのに一日の長があるという事かもしれない。もちろん著者である小林先生の教え方がうまいという事でもある。

 ああ、ここまで書いてちっとも本文の内容に触れなかった。小林・益川両先生は「CP対称性の破れ」を仮定することで、物質と反物質がこの世界に等分に存在しない理由を説明した。そして、この仮定から当時まだ4つしか理論的に認められていなかったクォークが6つ存在することを予想したのだ。そしてそれは最近の実験で存在が実証された。それはとんでもない幸運な事だ。何しろ巨大な加速器(Bファクトリー)を莫大な国家的な予算で作って実験しない限り、最先端の理論は証明される機会を永遠に持てないからだ。

 益川さんが受賞の気分を記者から尋ねられて「(数年前の実験で)僕らの理論の証明された事こそ嬉しかった。ノーベル賞受賞なんてうれしくないよ」と言ったのは、まさにそういう事なのだ。

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posted by アスラン at 13:07| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(1) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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