2008年08月18日

楽園(下) 宮部みゆき(2008/8/9読了)

 かつて「模倣犯」を読んだときに辛い思いをしたので、今回主人公がその時に登場したフリージャーナリストの前畑滋子だと知って、またまた厳しい読書になるのではないかと恐れていると上巻の感想に書いた。あれから3ヵ月経ってようやく図書館で下巻が借りられた。これだけ間隔が開いてしまうと細かい部分が記憶から飛ぶし、上巻で盛り上がった高ぶりを取り戻すのに時間がかかる。

 上巻のストーリーの中心が、亡くなった等という少年のサイコメトラーとしての力の真偽に重点が置かれていて、上巻末で滋子が力の存在を認めたところで終わった。てっきり、下巻は少年の超能力の証明と、彼が見て絵に描いてしまった娘殺しの事件の真実が同時平行で進むのかと思っていた。しかし等と母の敏子のドラマは後景に退き、もっぱら当時未成年だった少女・茜を両親が殺したのは何故か、十何年もの間自宅の床下に隠していたのは何故かを解き明かすストーリーが中心となる。

 もちろん、この流れに不満があるわけではない。残念ながら上巻と下巻の読書が開いてしまったせいで、主旋律となる救いがたい事件を、副旋律となる等と敏子の物語が浄化するはずが、少々自分の気持ちが盛り上がりに欠けることになってしまった。

 その代わり、主旋律である救いがたい事件の結末の方はしっかりと受け止めてしまった。「模倣犯」の犯罪の残酷さに匹敵するわけではないが、物語巧者の宮部みゆきが最後の最後に用意した「真実」は、やはり心にグサッとくるものだった。実の両親が娘を殺したという事実は変わりようがない。意外な犯人も意外などんでん返しもない。それにも関わらず、その変わらない「事実」に潜んだ動機は衝撃的だ。ここを読み流してしまったら、この本が書かれる意味がない。

 このところ、親殺し・子殺しのニュースが驚くほど頻繁に耳に入ってくる。そこで見かけるのは本当に救いようのない「短絡的な殺人」だ。しかし、ここで宮部があえて描いた事件は、濃密な血のつながりの意味を問いかける、ある意味「救いようのある」物語なのかもしれない。

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posted by アスラン at 13:01| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(4) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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