2008年08月06日

火打ち箱 アンデルセン(2008/8/1読了)

アンデルセン童話集(1)を岩波文庫版で読みだしたときの最初の短編がこの「火打ち箱」だ。有名な作品を数多く作り出したアンデルセンの作品としては聞いたことのないタイトルで、ただ「火打ち箱」と平凡なタイトルが付けられている。あまり期待をしないで読み出すと、戦争から帰郷する一人の兵隊がでてくる。なおのこと、つまらない話になりそうだと侮ってしまう。

 ところが、そこからこの短編はどこへどう話を落ち着けるのか読者の予想もできないほど、とっぴな物語へと発展する。しかも、この物語のなんとも人の心の捉えて離さないものは何かと言えば、タイトルに出てくる「火打ち箱」ではなく、銅貨・銀貨・金貨の箱をそれぞれ守る3匹の犬なのだ。しかも、その犬は「茶碗の大きさの目」「水車の大きさの目」「塔の大きさの目」を持つ異形の怪物なのだ。

 この「塔の大きさの目」を持つ犬が、最後の最後に王様になった兵隊とお姫さまの脇に、他の2匹とともに座って「目をグリグリさせました」と形容されて物語は終わる。もうあっけにとられるしかなかった。これは童話ではない。ホラーだとも言えるし、アラビアンナイトのような大人の寝物語だとしても差し支えない。そしてやっぱり、怖いものみたさの子供を引きつける童話でもある。つまり、アンデルセンは童話作家というよりはストーリーテラーなのだと、この一編で思い知らされた。

 それをなんと「絶対安全剃刀」「るきさん」の高野文子が絵本にしていると最近知った。正確には、〈本の探偵〉を生業としている赤木かん子が文章を書き、絵を高野が担当している。巻末に成立事情が書かれていておもしろい。やはり僕同様にタイトルと物語とのギャップを感じるがゆえに、「塔の大きさの目をもつ犬のお話」を探してほしいと探偵依頼がたくさん舞い込むらしい。

 さてどうしたら絵本にできるかと、赤木が相談すると、高野が私にやらせてと言ってきてできあがったのが本書だ。

 一枚の紙から切り出して造形したペーパークラフトを思いっきり遠近を強調しながらデジカメで撮影するという大胆な手法で、シンプルでありながら不可能と思われた3匹の犬の大きさや荒唐無稽さが一挙に表現されている。

 漫画家でイラストレーターの高野文子のセンスが十分に活かされている。たとえば、金貨を詰め込むのに夢中になって火打ち箱をとってくるのを忘れた兵隊を、おばあさんがたしなめるシーンでは、おばあさんの手がにょきっと伸びて木の底にある火打ち箱を指し示す。あるいはお姫様を一目見たいと「茶碗の目の犬」に頼むシーンでは、ピョンピョンピョンと飛び跳ねるように飛び出していく犬の躍動が、ただの一枚の紙に収まる。

 惜しむらくは、3匹の犬がとってもカワイイところだろうか。「茶碗の目の犬」は愛くるしいし、「塔の目の犬」でさえどことなく愛嬌がある。僕のイメージだと、もうちょっと化け物じみた怖さをたたえていてもいいと思うのだが、子ども向けの絵本の役目を担っているのだからやむを得ない。それともう一点。冒頭、道の途中で兵隊が出会うおばあさんが金貨のありかを教えてくれたのに、火打ち箱をよこせと言った直後に兵隊が問答無用でおばあさんの首をサーベルでちょんぎってしまうのも原作の怖いところなのだが、本書では最初からおばあさんが魔法使いであることをネタばらしして話を進めている。これも不満と言えば不満だが、本書のターゲットを考えれば正しい選択なのだろう。

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posted by アスラン at 12:47| 東京 🌁| Comment(4) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ブックしました。
書店で見かけることが有れば、購入すると思います。
高野文子さんのセンス好きなのです。
Posted by rago at 2008年08月07日 19:36
らごさん、ひさしぶりです。

高野さんのファンを身近に見つけてうれしいですね。
そうだ、僕も買えばいいんだった。
今日、いや昨日返却してしまいました。
「絶対安全剃刀」以降の彼女の作品は全部買ってもってるのだから。

僕も購入を考えます。
Posted by アスラン at 2008年08月11日 03:01
実は、あれから以前この本の書評を新聞で読んでいた事を思い出したのです(汗
しかも、「欲しい」と思った事まで(滝汗
三歩歩いて忘れるragoです(涙

「絶対安全剃刀」私も持っています。
Posted by rago at 2008年08月16日 17:33
いえいえ、こちらもそんなこと日常茶飯事です。
「あっ、これ読みたい!」のカテゴリーで紹介している本なども、一年前には書店で見かけてタイトルをメモっておいたのに、いざ紹介しようと思っても、なんで読みたいと思ったのかすら忘れている事もあるくらいですし。

「絶対安全剃刀」もってるんですね。ひょっとして「おともだち」はいかがでしょう?ragoさんの好みにもっともフィットしそうな作品ですよ。
Posted by アスラン at 2008年08月20日 02:48
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