まあクイーンの新刊(新作ではない)「間違いの悲劇」も来年早々出ることだし、追加修正はあってしかるべきだろう。なによりこの手のガイド本は、携帯しながら次に読む著作を決めたりするのに便利だからできるなら買っておきたい。
思えば長くクイーンファンを自称してきたが、クイーンの著作を総ざらいして(表紙にあるように)徹底解説した本は皆無に等しい。大抵が著作リストとあらすじがあるだけ。あとは作家や評論家の寄稿とアンケート。そしてクイーンの収まりのいい未発表短編というのが精々だ。
もちろんクイーン漬けになっていた十代の頃にはそれでよかった。作品は全部読んでいたし、クイーンのことなら何でもかんでも知りたいのがファンの常だから。末尾の「クイーンを極めるためのガイド」でも紹介されている「エラリイ・クイーンとそのライヴァルたち」など、まさにあらすじで著作紹介をすます典型だ。ちなみに古本屋で探さないと今や手に入らないようだが、実家の棚には当時購入した「…ライヴァルたち」とともにフランシス・ネヴァンスJr.の「エラリイ・クイーンの世界」も並んでいる。
上に挙げた本は初心者向けとは言えない。だから本書のようにあらすじだけでなく勘どころを詳しく解説した上に、読みやすい順、オススメ順にグループ分けしてあるのは本当にいいアイディアだ。当然ながら発表順に読まないと前期・中期・後期といったクイーン作品の推移が味わえないという意見もあるだろうが、それはまずクイーン作品に触れて楽しんでもらってから後の話だろう。
初心者向けと言ったが、本書は僕のように十代でほぼ読み尽くしてしまったオールドファンにも新鮮なガイド本である。僕がクイーンに浸っていた頃は乱歩や中島河太郎らが書いた啓蒙的なクイーン解説か、「『Yの悲劇』は果たしてそんなに面白いか」のようなミステリーマニアたちのうがった議論が多かった。
啓蒙的な解説からは「国名シリーズはどれを読んでも水準が高い」「バーナビーロスがクイーンだと明かされた時の驚きは大変なものだった」「『Yの悲劇』はクイーン作品中のみならず世界のミステリー中の大傑作だ」みたいな牧歌的なウンチクや印象批評が横行して新鮮味に欠けた。
後者のうがったマニア受けする議論には正直ついていけなかった。それは今でもそうで、例えば「後期クイーン問題」だとか「ゲーデル問題」と言ったコアなエラリアナにしか分からない今風の玄学趣味に偏っていたら本書はつまらなくなっていただろう。新しいクイーン世代による新しい読み方が進んだ分だけ、本書の解説は開かれた風通しのいい内容になっている。
僕はクイーンの理詰めの作風に惹かれるが、トリックの出来や伏線の張り方などを意識しながら読むのはあまり好きではない。ましてや犯人当ても二の次。要は謎解きで驚かせてくれればいい。あのトリックは誰それの○○のバリエーションだとか二番煎じだとかの議論はごめん被りたい。
だが、こういう読み方もあるという指摘は大歓迎だ。とくに本書では言わば立て読みを横読みにかえるようなヒントに満ちている。一例を挙げると「アメリカ銃の謎」の解説では、トリックだけ思いを巡らして推理しようとしないマニアにさえ推理を促すように書かれている、と言う。
ほぉ、ではまた読んでみるかという気にさせるではないか。おそらく意図的だと思うのだが、解説の前半でビギナーをいざない、後半で筋金入りのファンの再読をさそう。うまく塩梅されているのだ。
問題はまたクイーン全作を読み返す余裕がない事だ。もうひとつの問題は実家に戻らないとクイーン作品のほとんどが手にとれないという事だ。と思ったらいまやブックオフの100円均一棚で手に入るのだな。さっそく「オランダ靴の秘密」を買ってしまいました。
さて、それではまたクイーン作品の「再読」読みの長い長い旅を始めるとしましょうか。
(2005/11/21読了)



