今年で3年連続して蒼井優がメインキャラクターに起用された。今のナツイチスタイルに変わってからだから、やはりナツイチと言えば、イコール蒼井優。そしてキャッチコピーも多感な乙女心を反映した言葉にあふれていた。
2006年: 好きな本を一冊つくろう。
2007年: ただ言葉がならんでいるだけなのに。
2008年: 世界を変えよう。
目次は今年のコピーに呼応して「新しい世界の扉をひらこう」というタイトルを付して項目が立てられているが、昨年と分類が変わったとは言え、実質的には「世界への扉」へと誘うほどの新しさはない。特徴としては、まず「スペシャル」があって、独自企画として「気になるお仕事を読んでみよう」と「気になる時代を読んでみよう」の二つが用意されている。
目次の次が、昨年から採用された「著者別インデックス」だ。どの出版社でも著者別の目次は末尾に置かれるが、ナツイチが初めて「好きな作家」で読む楽しさを提案した。〈目からウロコ〉的発想のインデックスは今年さらに進化して、作品タイトルも併記された。そのせいで見開き2ページで収まらなくなった。進化には違いないが、パッと見に「好きな作家」を探しにくくなったデメリットも感じる。また、作品数のカウントに利用してわかったのだが、「漫画版 日本の歴史」の第1〜2巻が抜けている。監修名はあるが著者名がない本なので入れなかったのか。おそらく「入れ損ねた」が正解だろう。
さて解説ページのレイアウトに変更はないし、解説本文もいじられてはいない。何か変わってないかとよくよく見たら、作品のキャッチコピーと表紙イメージの配置が入れ替わった。これがどんな効果をもたらすかと言うと、表紙が解説枠のほぼ中央にドデンと居座っていて非常に目立つ。「表紙で選んでくださいね」という編集部の心の声が伝わってくる。そして、まさに今年の「スペシャル」が表紙をフィーチャーした企画なのだ。
「文豪の名作×人気漫画家」のコラボレーション企画は、すでに昨年の太宰治「人間失格」に前例がある。あの「DEATH NOTE」の著者・小畑健による描き下ろしカバーだった。2007年は、「人間失格」のカバーと、蒼井優を表紙にした「こころ」「銀河鉄道の夜」などのカバーが目についた。漫画のカバーの方は「多少抵抗がある」と昨年書いた。理由の第一は「デスノート」を読んでないので小畑健のイラストに面白さを感じないこと。第二はすでに読んだ本なので、どんなイラストでも違和感を感じるだろうこと。この2点だ。
もちろん「今の若い世代にアピールする」のが最優先であることは理解できる。その姿勢に異論はないので企画自体は「あっぱれ、ナツイチ」と言いたい。ただし、違和感は違和感として検討しておこう。どちらかと言えば、漫画家のカバーだけでは違和感はそれほど大きくない。作品にインスパイアされた漫画家がいかようにイメージを膨らませようと構わない。本の内容とは独立した創作表現として評価は可能だ。ただし、作品の解説までが表紙のイメージに沿った形で変更されるとなると、ちょっと見過ごせなくなる。
たとえば太宰治「人間失格」のコピーは、
太宰、没後60年。人間を合格と失格に分けるラインはどこにあるのか?
という、いささかお門違いな問いかけに変わった。〈お門違い〉と言ったのは、どこをどう押しても著者に主人公を普遍的な〈失格人間〉として描こうなどという意図は見えないからだ。だが、まあ、それはいいだろう。
では、夏目漱石「こころ」はどうだろう。
親友と同じ人を好きになったら、あなたはどうする?
という分かりのいいコピーは、まさに小畑健の描いた表紙の骸骨に魅入られた「先生」を主人公にした漫画のコピーとしか思えない。
極めつけは川端康成「伊豆の踊子」だ。「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦が描いた、花びらにまみれて踊る少女は、可愛くない事をのぞけば「あどけなさと女らしさのはざまにいる乙女」をかなりうまく描いている。しかし、それに付されたコピーが、
さよならの意味を知って少年少女は大人になっていく…
というのは噴飯ものだろう。あそこで描かれる男(私)と女(踊り子)は決して対当の関係にはない。「少年少女」などとひとくくりできるものではない。かたやエリート学生、かたや旅芸人の娘、といういびつな現実を抱え込んでいるというのに、どうしたらこんなお気楽コピーが出てくるのか。解説の出だしでも「自分の殻を打ち破ろうと旅に出た”私”。」とある。うそだろ〜。そんなポジティブなモチーフが”私”にあったとは到底思えない。そもそも川端作品らしくないではないか。
と、ひとくさりしたところで、今年のラインナップに移ろう。今年は全99冊。うち67冊が新たに入った本で32冊が昨年と変わらず。昨年が全95冊、新60冊だったから、昨年以上に作品が入れ替わったことになる。昨年とのラインナップの違いは例年どおり末尾に掲載する。
解説には、読ませどころの要点を列挙した「ポイント!」と、次に読むとしたらというナビ「次はコレ!」がついている。それ以外に、今年の面白い工夫としては「試し読み」が用意されている。何冊かにOCRバーコードがついていて試し読みのHPにつながる。ちなみに「試し読み」のバーコードがついている本は以下の5冊だ。
芥川龍之介「地獄変」
木村元彦「オシムの言葉」
シートン「狼王ロボ シートン動物記」
村山由佳「夢のあとさき おいしいコーヒーのいれ方10」
中島たい子「漢方小説」
蝶々「小悪魔な女になる方法」
さて、恒例の問いを調べてみよう。
何の本から読み始めると「次はコレ!」を使って最も長く読み継げるか?
昨年は14冊。一昨年は12冊。チャートの短さはナツイチの良心の現れ、長くなるのは角川のいい加減さの現れと言い続けてきた。今年の「発見。角川文庫」の44冊の長さを「一冊でも多く買わせるための戦略ではないか」と書いてしまった。だが、ここに衝撃的事実を告げなくてはならない。今年のナツイチは99冊全部が一つの輪となってつながるのだ。
「最も似ている作品」につなげていたら一つの輪には絶対にならないはずだ。だから敢えて並べ方を考えると、最初から大きな円を用意して、どの作品の間が「最もふさわしいか」を考えながら椅子を置いていく。椅子取りゲームならぬ椅子増しゲームでチャートを完成させたのだろう。
角川文庫でさえ、やらなかった、いや、やれなかった。それをナツイチはアッサリとやってしまった。禁断のワンループは、やはりナツイチの大胆さの現れだ。などと持ち上げてる場合ではなかった。コレって無理ありますよね、ナツイチ編集部さん。例えば、
ザ・プレイ->今夜誰のとなりで眠る
瑠璃の海->こころ
家、家にあらず->第三の時効
M8->危険な夏
のつなげ方って、「ナゼ?」って思いますもん。「次はコレ!]の全チャートは長くなるので最後にまわす。
最後に、「今年躍進した作家」「今年後退した作家」「今年新たに入った本」「今年消えた本」の一覧を挙げておこう。
[躍進組]
浅田次郎(2->4)
恩田陸(2->3)
芥川龍之介(1->2)
鎌田實(1->2)
北方謙三(1->2)
林真理子(1->2)
[後退組]
村山由佳(6->4)
さくらももこ(3->2)
荻原浩(2->1)
夏目漱石(2->1)
三田誠広(2->1)
谷川俊太郎(2->1)
浅田次郎が今回4冊に大躍進。と言っても4冊とも「天切り松」シリーズなので躍進度は割り引いて考えた方がいい。その点、昨年の驚異的な6冊から4冊に後退したとは言え、村上由佳への偏りは相変わらずだ。やはり女性をターゲットに据えたナツイチでは、恋愛小説の達人・村上のニーズは高いようだ。
[今年入った本(67冊)]
「話して考える」と「書いて考える」 大江健三郎
GO−ONE 松樹剛史
I'm sorry,mama. 桐野夏生
M8 高橋哲夫
いじめの光景 保坂展人
うわさの神仏 加門七海
オシムの言葉 木村元彦
オテル モル 栗田有起
おばちゃまは飛び入りスパイ D.ギルマン
オリンピア ナチスの森で 沢木耕太郎
カスに向かって撃て! J.イヴァノヴィッチ
がばいばあちゃん 島田洋七
キスよりもせつなく 唯川恵
ザ・プレイ A.ブレナン
さよならバースディ 荻原浩
ショート・トリップ 森絵都
そうだったのか!現代史 池上彰
それでもやっぱりがんばらない 鎌田實
チェ・ゲバラの遙かな旅 戸井十月
ハーケンと夏みかん 椎名誠
はなうた日和 山本幸久
ひろさちやのゆうゆう人生論 ひろさちや
フレフレ少女 橋本裕志
愛がいない部屋 石田衣良
愛には少し足りない 唯川恵
伊豆の踊子 川端康成
泳ぐのに、安全でも適切でもありません 江國香織
汚れちつまつた悲しみに… 中原中也
家、家にあらず 松井今朝子
花より男子ファイナル 下川香苗
怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道 高野秀行
絵のない絵本 アンデルセン
蒲公英草紙 恩田陸
漢方小説 中島たい子
危険な夏 北方謙三
救命センター部長ファイル 浜辺祐一
桑田真澄 ピッチャーズバイブル 石田雄太
君に舞い降りる白 関口尚
源氏に愛された女たち 渡辺淳一
黒笑小説 東野圭吾
最後の銃弾 サンドラ・ブラウン
在日 陷三巡
朱夏(上)(下) 宮尾登美子
娼年 石田衣良
小悪魔な女になる方法 蝶々
真夜中のマーチ 奥田英朗
相剋の森 熊谷達也
地獄変 芥川龍之介
天使の梯子 村山由佳
天切り松 闇がたり第三巻 初湯千両 浅田次郎
天切り松 闇がたり第四巻 昭和侠盗伝 浅田次郎
天切り松 闇がたり第二巻 残侠 浅田次郎
東京バンドワゴン 小路幸也
二十億光年の孤独 谷川俊太郎
年下の女友だち 林真理子
白夜行 東野圭吾
秘密のひととき 赤川次郎
葡萄物語 林真理子
風の影(上)(下) C.R.サフォン
分身 東野圭吾
平面いぬ 乙一
僕に踏まれた町と僕が踏まれた町 中島らも
漫画版日本の歴史1 岡村道雄監修
漫画版日本の歴史2 吉村武彦監修
夢のあとさき おいしいコーヒーのいれ方X 村山由佳
狼王ロボ シートン動物記 シートン
薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木 江國香織
[今年消えた本(63冊)]
1ポンドの悲しみ 石田衣良
ZOO 乙一
アド・バード 椎名誠
あの頃ぼくらはアホでした 東野圭吾
エンジェル 石田衣良
おむすびの祈り 佐藤初女
オロロ畑でつかまえて 荻原浩
お縫い子テルミー 栗田有起
キスまでの距離 おいしいコーヒーのいれ方I 村山由佳
きみのためにできること 村山由佳
こちら救命センター 病棟こぼれ話 浜辺祐一
こどもの一生 中島らも
サウンドトラック 古川日出男
シュガーレス・ラヴ 山本文緒
すべてのいのちが愛おしい 柳澤桂子
スポーツドクター 松樹剛史
その女の名は魔女 赤川次郎
テニスボーイの憂鬱 村上龍
なかよし小鳩組 荻原浩
なつのひかり 江國香織
ひとりの女 群ようこ
プリズムの夏 関口尚
ボーダーライン 真保裕一
みどりの月 角田光代
もものかんづめ さくらももこ
ららのいた夏 川上健一
レインレイン・ボウ 加納朋子
ワセダ三畳青春記 高野秀行
愛しても届かない 唯川恵
悪人海岸探偵局 大沢在昌
永遠の出口 森絵都
永遠の放課後 三田誠広
夏雲あがれ 宮本昌孝
怪笑小説 東野圭吾
喜びの涙をあなたと サンドラ・ブラウン
銀河鉄道の夜 宮沢賢治
九つの物語 サリンジャー
肩ごしの恋人 唯川恵
幻夜 東野圭吾
孔雀狂想曲 北森鴻
行動することが生きることである 宇野千代
作家24人の名作鑑賞 私を変えたこの一冊 集英社文庫編集部編
死ぬほど好き 林真理子
車輪の下 ヘルマン・ヘッセ
呪われた町 スティーヴン・キング
十八歳 谷川俊太郎
小春日和 野中柊
笑う招き猫 山本幸久
神々の山嶺 夢枕獏
青い麦 コレット
谷川俊太郎詩選集1 谷川俊太郎
長距離走者の孤独 アラン・シリトー
鉄道員(ぽっぽや) 浅田次郎
天使の卵 村山由佳
天切り松読本 浅田次郎監修
天然コケッコー 下川香苗
東京物語 奥田英朗
日のあたる白い壁 江國香織
風が吹いたら桶屋がもうかる 井上夢人
聞きたい言葉 おいしいコーヒーのいれ方IX 村山由佳
坊っちゃん 夏目漱石
友情・初恋 武者小路実篤
恋する四字熟語 佐藤真由美
[次はコレ!]
芥川龍之介「地獄変」->
太宰治「人間失格」->
中原中也「汚れちつまつた悲しみに…」->
谷川俊太郎「二十億光年の孤独」->
アンデルセン「絵のない絵本」->
シートン「狼王ロボ シートン動物記」->
サンテグジュペリ「星の王子さま」->
森絵都「ショート・トリップ」->
恩田陸「光の帝国」->
恩田陸「蒲公英草紙」->
山本幸久「はなうた日和」->
栗田有起「オテル モル」->
中島たい子「漢方小説」->
鎌田實「がんばらない」->
鎌田實「それでもやっぱりがんばらない」->
大江健三郎「「話して考える」と「書いて考える」」->
保坂展人「いじめの光景」->
ひろさちや「ひろさちやのゆうゆう人生論」->
浜辺祐一「救命センターからの手紙」->
浜辺祐一「救命センター部長ファイル」->
高橋哲夫「M8」->
北方謙三「危険な夏」->
北方謙三「水滸伝(一)」->
戸井十月「チェ・ゲバラの遙かな旅」->
熊谷達也「相剋の森」->
宮尾登美子「朱夏(上)(下)」->
C.R.サフォン「風の影(上)(下)」->
東野圭吾「白夜行」->
東野圭吾「分身」->
桐野夏生「I'm sorry,mama.」->
松井今朝子「家、家にあらず」->
横山秀夫「第三の時効」->
サンドラ・ブラウン「最後の銃弾」->
A.ブレナン「ザ・プレイ」->
唯川恵「今夜 誰のとなりで眠る」->
唯川恵「キスよりもせつなく」->
唯川恵「愛には少し足りない」->
一条ゆかり「実戦!恋愛倶楽部」->
渡辺淳一「源氏に愛された女たち」->
蝶々「小悪魔な女になる方法」->
江國香織「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」->
江國香織「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」->
林真理子「年下の女友だち」->
林真理子「葡萄物語」->
小池真理子「瑠璃の海」->
夏目漱石「こころ」->
川端康成「伊豆の踊子」->
三田誠広「いちご同盟」->
村山由佳「海を抱く」->
村山由佳「青のフェルマータ」->
村山由佳「天使の梯子」->
村山由佳「夢のあとさき おいしいコーヒーのいれ方X」->
関口尚「君に舞い降りる白」->
本多孝好「MOMENT」->
恩田陸「ネバーランド」->
松樹剛史「GO−ONE」->
橋本裕志「フレフレ少女」->
下川香苗「花より男子ファイナル」->
石田衣良「スローグッドバイ」->
石田衣良「愛がいない部屋」->
池永陽「コンビニ・ララバイ」->
荻原浩「さよならバースディ」->
乙一「夏と花火と私の死体」->
乙一「平面いぬ」->
乙一「暗黒童話」->
赤川次郎「秘密のひととき」->
宮部みゆき「地下街の雨」->
三崎亜記「となり町戦争」->
芥川龍之介「河童」->
加門七海「うわさの神仏」->
高野秀行「怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道」->
枡野浩一「ショートソング」->
田中啓文「ハナシがちがう!」->
浅田次郎「天切り松 闇がたり第一巻 闇の花道」->
浅田次郎「天切り松 闇がたり第二巻 残侠」->
浅田次郎「天切り松 闇がたり第三巻 初湯千両」->
浅田次郎「天切り松 闇がたり第四巻 昭和侠盗伝」->
岡村道雄監修「漫画版日本の歴史1」->
吉村武彦監修「漫画版日本の歴史2」->
陷三巡「在日」->
池上彰「そうだったのか!現代史」->
木村元彦「オシムの言葉」->
沢木耕太郎「オリンピア ナチスの森で」->
石田雄太「桑田真澄 ピッチャーズバイブル」->
島田洋七「がばいばあちゃん」->
さくらももこ「のほほん絵日記」->
さくらももこ「さくら日和」->
長嶋有「ジャージの二人」->
奥田英朗「真夜中のマーチ」->
東野圭吾「黒笑小説」->
J.イヴァノヴィッチ「カスに向かって撃て!」->
D.ギルマン「おばちゃまは飛び入りスパイ」->
小路幸也「東京バンドワゴン」->
椎名誠「岳物語」->
椎名誠「ハーケンと夏みかん」->
野口建「落ちこぼれてエベレスト」->
中島らも「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」->
石田衣良「娼年」->
金原ひとみ「蛇にピアス」
(->芥川龍之介「地獄変」)



