2006年:「発見。夏の100冊 角川文庫」
2007年:「発見。夏の百冊 角川文庫」
2008年:「発見。角川文庫 夏の100冊」
発見。
夏の百冊
角川文庫
白地に大きめの活字で等間隔に文字が整列している。この一番下の「角川文庫」の四文字と同じ文字数にすることで「夏の百冊」の独特のリズムが立ち上がってくる。そうだったか。いまさらだが、ズシッと安定感のあるレイアウトだったんだな。
ところが今年は松山ケンイチだ。狙いを変えてきた。それは何か。キーワードは「絶望」だ。昨年は集英社文庫が30周年だったが、今年は角川文庫創刊60周年なのだそうだ。扉を開けると「発見。角川文庫 60th
Anniversary」 とある。さすがに貫禄がある。そうか、表紙のタイトルの順番を変えた理由は、夏の文庫フェアを60周年記念の一つに位置づけたかったからだな。
そして、創刊以来の文庫をすべて並べたとおぼしき本棚を背景にして、きどったポーズの松山に付されたコピーは、
60年分の愛とか
夢とか
絶望とか
だ。かなり切れ味するどいが「とか、ってなんだよ」と無粋なツッコミを入れたくもなる。答えはP.56の「角川文庫60年の歩み」に書かれていた。
あなたがみつけるその1冊
総刊行点数15000点以上。60年分の愛や、夢や、絶望や、希望が詰まった棚の前で、あなただけの1冊を発見しませんか。
〈絶望〉の次に〈希望〉もあるところに注目してほしい。編集部の意図はいたって明解だ。60年の歩みを読者に味わって欲しい。平凡だが分かりやすい。しかし、「夏の100冊フェア」の売り込み方は一見するとわかりにくいがドキッとさせる。夏なのにヒヤッとさせる。さらに追い討ちをかけるように次の見開きで、
人間をさぼるな
と松山ケンイチが睨みつける。バカンスに浮かれる僕らを躓かせようとする。「おいおい、それでいいのかよ。もっと人間を、自分を、人生を見つめなおせよ。いい機会だろ」と突き放すところがきわめてアンチ・ナツイチっぽい。
しかも、今年はナツイチに対抗するようにスペシャルカバーを2冊ほどに取り入れた。漱石や太宰の名作の表紙を蒼井優の写真に差し替えたのが昨年のナツイチの大胆さだったが、角川文庫でも松山ケンイチを表紙にもってきた。太宰治の「人間失格・桜桃」「走れメロス」の2冊だ。これをナツイチの真似と見るかアンチ・ナツイチと見るかは意見が分かれるかもしれない。蒼井優の主張しない控えめな表紙と比べると、黒を背負った松山の個性的な写真は、作品よりも自己主張している。なぜ2冊とも太宰なのか。まさに「絶望」が似合う作家だからだろう。
さて、ここまで書いたら、あとはあまり書くことはない。松山ケンイチをイメージキャラに据えて、創刊60周年を強調したコピーを採用したことをのぞけば、作品のラインナップや小冊子のデザインに昨年以上の工夫は見られない。強いて言えば、昨年30周年だった集英社文庫が古典を〈スタンダード〉と言い換えて、2007年のラインナップに「スタンダード」を多めに入れてきたのとそっくりなやり方を、60周年の角川も採用している。またしてもナツイチの後追いだ。
簡単に指摘すると、昨年と変わらぬ目次に「学ぶ。」という項目が増えた。ビギナーズ・クラシックシリーズから例年3冊は入るのだが、今年は4冊。「源氏物語」が入っているが、それ以外にも田辺聖子の「絵草子 源氏物語」が入り、柳田国男の「遠野物語」まである。
では、昨年から採用されたチャート「次に読む本を発見。」について、恒例の問いに答えよう。
何から読むとチャートが最長になるか?
答えは以下のとおり。
星新一「きまぐれロボット」→
宮部みゆき「あやし」→
武光誠「知っておきたい日本の神様」→
矢野健太郎「数学物語」→
ダン・ブラウン「ダ・ヴィンチ・コード (上)(中)(下)」→
米原万里「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」→
森絵都「アーモンド入りチョコレートのワルツ」→
三浦しをん「月魚」→
華恵「小学生日記」→
森絵都「つきのふね」→
石田衣良「約束」→
大崎善生「パイロットフィッシュ」→
夏目漱石「こゝろ」→
夢野久作「ドグラ・マグラ (上)(下)」→
寺山修司「書を捨てよ、町へ出よう」→
寺山修司「ポケットに名言を」→
坂口安吾「堕落論 」→
森鴎外「舞姫・うたかたの記」→
夏目漱石「坊っちゃん」→
灰谷健次郎「兎の眼」→
遠藤周作「海と毒薬」→
ジョージ・オーウェル「動物農場」→
角川書店「ビギナーズ・クラシックス 徒然草」→
加地伸行「ビギナーズ・クラシックス 論語」→
武光誠「知っておきたい日本の名字と家紋」→
田辺聖子「絵草紙源氏物語」→
角川書店「ビギナーズ・クラシックス 源氏物語」→
角川書店「ビギナーズ・クラシックス 枕草子」→
林真理子「美女入門」→
山本文緒「ファースト・プライオリティ」→
江國香織「落下する夕方」→
角田光代「愛がなんだ」→
山本文緒「恋愛中毒」→
江國香織「冷静と情熱のあいだ Rosso」→
辻仁成「冷静と情熱のあいだ Blu」→
姫野カオルコ「ツ、イ、ラ、ク」→
新堂冬樹「ある愛の詩」→
森絵都「いつかパラソルの下で」→
田辺聖子「ジョゼと虎と魚たち」→
吉本ばなな「キッチン」→
伊坂幸太郎「グラスホッパー」→
金城一紀「GO」→
矢口史靖「ウォーターボーイズ」→
森絵都「DIVE!! (上)(下)」→
乙一「失はれる物語」→
(夏目漱石「こゝろ」)
星新一「きまぐれロボット」から始めると44冊もなんと読み継げる!昨年が31冊だったので大幅な記録更新だ。昨年もかなり多いと思ったのだが、どうしてこんなに長くつながるのだろう。それは角川のチャートの特徴として、「次に読む本」が他の本と重ならないように割り振っているからだ。こうすると、理屈で言えばすべてのラインナップが一列に並んで大きなループができる事になる。さすがにテイストが似た本が見つからなくなるからだろうか、実際にはループは6つ作られていて、最長が32冊、最短が5冊だ。
では何故、ナツイチのように〈テイストがもっとも似た本〉へとナビゲートしないのだろうか。おそらくだが、なるべく重ならないようにチャートを割り振る事で1冊でも多く本が売れるように仕組んだのではないだろうか。昨年感じた〈インチキ感〉はこういうところから来ているわけだ。
続いて恒例の作家・作品の比較だ。まずは作家の躍進組と後退組の一覧を挙げる。括弧内の数字は2007年と2008年で掲載された作品数の推移を示している。(ただし、躍進の0->1と後退の1->0は多数いるので省略する。)
[躍進組]
森絵都(1->4)
東野圭吾(1->3)
森鴎外(0->2)
パウロ・コエーリョ(1->2)
芥川龍之介(1->2)
宮沢賢治(1->2)
江國香織(1->2)
田辺聖子(1->2)
武光誠(1->2)
[後退組]
あさのあつこ(2->1)
乙一(2->1)
山田悠介(2->1)
重松清(2->1)
小川洋子(2->1)
森村誠一(2->1)
星新一(2->1)
滝本竜彦(2->1)
筒井康隆(2->1)
何に注目すればいいかは一目瞭然だろう。森絵都と東野圭吾の直木賞作家の華々しい返り咲きだ。昨年初めてナツイチスタイルを採用した際に、なにより犠牲になったのがこの二人だった。従来の角川文庫は特定の作家にフィーチャーしたり、映画などとのメディアミックス戦略を強調して、ややいびつな身びいきを紙面に反映していたが、それを一切取りやめたのが昨年の大改革だった。その反動だろうか、今年は従来の路線にやや戻した。
それにしても森絵都は大躍進だ。これは直木賞作家の金看板に加えて、今夏の「DIVE!」の映画化でメディアミックス戦略にも乗った結果だ。そのあおりを受けたのは誰だろうと後退組をながめてみたが、特に誰が不利益を被ったというわけではない。強いて言えば、昨年久々に返り咲いた星新一と筒井康隆はふたたび各一冊に落ち着いたし、「バッテリー」の映画化・ドラマ化で話題だったあさのあつこも、今年はおとなしく一冊(「バッテリー」1シリーズと言うべきか)におさまった。
小冊子の解説はそれほど昨年と変わりはないが、面白いと思った箇所を最後にいくつか指摘しておこう。
吉本ばなな「キッチン」
2007年:「世界25カ国で愛される」
2008年:「世界28カ国で愛される」
(コメント)1年で3カ国も新たに翻訳されたのか、ばなな恐るべし!
ルイス・キャロル「不思議な国のアリス」
2008年:「6歳から60歳までの広範囲にわたる読者層を持つ」
(コメント)この数字の限定は何?「アリス」って60歳までしか読まれてないの?
森絵都「DIVE!!(上)(下)」
2007年:「中学2年生の坂井知季、高校2年生の沖津飛沫と富士谷要一」
2008年:「中学1年生の坂井知季、高校1年生の沖津飛沫と富士谷要一」
(コメント)なんで一学年ずつ減ってんの?
フランツ・カフカ「変身」
2007年:「グレゴリー・ザムザは平凡なセールスマン。」
2008年:「グレゴール・ザムザはごく平凡なセールスマン。」
(コメント)今年〈新装版〉になったら主人公の名前がちょっと変わった。確か新潮文庫版では「グレーゴル・ザムザ」なんだよね。
矢野健太郎「数学物語」
2007年:「数学の権威が数の歴史をわかりやすく解説」(コピー)
2008年:「数学の権威が数学の歴史をわかりやすく解説」(コピー)
(コメント)「数の歴史」と「数学の歴史」じゃ意味が全然違うじゃん!
実は最後の「数学物語」は、キャッチコピー部分が変わっただけでなく、解説が全文改訂している。
2007年:「私達の祖先は、どのように数字の概念を得ていったのか?」
「現在記録に残る最古の数字はどんなものだったのか?」
「古代エジプトやバビロニアで生まれた数字が、ギリシャに渡り…」
「数字の誕生から発展を、クイズ形式でわかりやすく解説。数字嫌いの人も、数字の不思議がどんどんわかる!」
2008年:「人類の祖先はどのように数の概念を得ていったのか?」
「最古の数学はどんなものだったのか?」
「古代エジプトやバビロニアで生まれた数学がギリシアに渡り…」
「数学の誕生と発展を、数式や図式を盛り込んで、平易な文章で解説。数学嫌いも、この一冊で数学への興味がわいてくる!」
2007年の解説があまりにひどい。まさに〈数学嫌い〉の人が書いたとしか思えない。ここまで違うと、かえって本を読んでみたくなった。
[今年新しく入った本(46冊)]
アーモンド入りチョコレートのワルツ 森絵都
アルテミス・ファウル妖精の身代 オーエン・コルファー
いつかパラソルの下で 森絵都
サウスバウンド (上)(下) 奥田英朗
さまよう刃 東野圭吾
ジョゼと虎と魚たち 田辺聖子
つきのふね 森絵都
ビギナーズ・クラシックス 枕草子 角川書店
ビギナーズ・クラシックス 論語 加地伸行
ファースト・プライオリティ 山本文緒
フェイク 楡周平
フルメタル・パニック! 戦うボーイ・ミーツ・ガール 賀東招二
ベロニカは死ぬことにした パウロ・コエーリョ
ミミズクと夜の王 紅玉いづき
ゆめつげ 畠中恵
愛がなんだ 角田光代
遠い海から来たCOO 景山民夫
絵草紙源氏物語 田辺聖子
空の中 有川浩
月魚 三浦しをん
山椒大夫・高瀬舟・阿部一族 森鴎外
四畳半神話大系 森見登美彦
償いの椅子 沢木冬吾
新遠野物語付 遠野物語拾遺 柳田国男
新版 にんげんだもの 逢 相田みつを
水の時計 初野晴
世界の終わり、あるいは始まり 歌野晶午
生きていてよかった 相田みつを
青の炎 貴志祐介
探偵倶楽部 東野圭吾
知っておきたい日本の名字と家紋 武光誠
蜘蛛の糸・地獄変 芥川龍之介
注文の多い料理店 宮沢賢治
天使と悪魔 (上)(中)(下) ダン・ブラウン
天使の爪 (上)(下) 大沢在昌
電池が切れるまで子ども病院から すずらんの会
動物農場 ジョージ・オーウェル
美女入門 林真理子
不思議の国のアリス ルイス・キャロル
舞姫・うたかたの記 森鴎外
霧笛荘夜話 浅田次郎
冷静と情熱のあいだ Blu 辻仁成
冷静と情熱のあいだ Rosso 江國香織
恋愛中毒 山本文緒
嗤う伊右衛門 京極夏彦
覘き小平次 京極夏彦
[今年消えた本(42冊)]
@ベイビーメール 山田悠介
DZ 小笠原慧
GOTH 夜の章/僕の章 乙一
いのちのバトン 相田みつを
きものが欲しい! 群ようこ
セーラー服と機関銃 赤川次郎
そして春風にささやいて ごとうしのぶ
つれづれノート 銀色夏生
デセプション・ポイント ダン・ブラウン
ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ 滝本竜彦
ビギナーズ・クラシックス おくのほそ道 松尾芭蕉
ビギナーズ・クラシックス 竹取物語 角川書店=編
みんないってしまう 山本文緒
ロマンス小説の七日間 三浦しをん
哀愁的東京 重松清
宇宙の声 星新一
愚者のエンドロール 米澤穂信
偶然の祝福 小川洋子
犬神家の一族 横溝正史
後巷説百物語 京極夏彦
幸福な遊戯 角田光代
秋に墓標を 大沢有昌
十五少年漂流記 ヴェルヌ
新選組血風録 司馬遼太郎
新装版 人間の証明 森村誠一
新版 いちずに一本道いちずに一ッ事 相田みつを
新版 人生論 トルストイ
新訳 ハムレット シェイクスピア
人生は、だましだまし 田辺聖子
成りあがり 矢沢永吉
聖家族のランチ 林真理子
青年社長 高杉良
続巷説百物語 京極夏彦
長い腕 川崎草志
日本以外全部沈没 パニック短篇集 筒井康隆
氷菓 米澤穂信
氷点 三浦綾子
不自由な心 白石一文
不道徳教育講座 三島由紀夫
福音の少年 あさのあつこ
眠れるラプンツェル 山本文緒
雷桜 宇江佐真理




何度か訪問してるんですが、今回はコメントも残そうと思って^^;
文章とかすっごく丁寧で本当に参考になります(^-^)
僕も今以上にがんばろうって初心に戻れました♪♪
またお邪魔させてもらいます☆