Chapter7. It . . . that . . .「A It(形式主語) . . . 名詞節」より。
7.2.5 It is regrettable, but it is a fact, that children do not look upon their parents with the same degree of affection as their parents look upon them.
(訳) 親が子供を見るときと同じくらい愛情をこめて子供が親を見ることはないというのは、残念ではあるが事実である。
この訳文の意味はもちろん誰でも理解できるだろうが、日本語としては違和感がある。問題は「比較構文を日本語として適切に表現するにはどうしたらよいか」という点にある。例えば次のような文を考える。
(a-1) I am 30 years old. (私は30才だ。)
(a-2)Fred is 30 years old. (フレッドは30才だ。)
この2文から比較の文を組み立てると以下のようになる。
(a) I am as old as Fred.(フレッドと私は同い年だ。)
元々の文のoldには原義の「歳を取った、年老いた」という意味はなく、数詞(30 years)を伴って「(ある期間が)経った、〜歳の」という意味になるので、原級(as … as)にはさまれたoldもその意味で使われている。その証拠に、私とフレッドが何歳であろうとも、この比較の文は使える。では次の文はどうだろうか。
(b-1) I love Julia very much. (私はジュリアをとても愛している。)
(b-2) Fred loves Julia very much. (フレッドはジュリアをとても愛している。)
この2文から比較の文を組み立てると以下のようになる。
(b) I love Julia as much as Fred loves. ((フレッドはジュリアをとても愛しているが)私も彼と同じくらい彼女の事を愛している。)
(b)の文は、loveという動詞を使っている以上、(b-1)(b-2)のように私もフレッドもジュリアを愛している事が前提となっている。ただし、本当の事を言うと(a)の「年齢差がない」場合と同様に、前提となる「愛情の度合いや条件」などは比較の形式では問われていない。
(b-3) I don't dislike Julia, and I love her in my own way. (私はジュリアが嫌いではない。むしろ私なりに彼女を愛している。)
(b-4) Fred doesn't dislike Julia, and he loves her in his own way. (フレッドはジュリアが嫌いではない。むしろ彼なりに彼女を愛している。)
この2文から組み立てた比較の文も(b)とまったく同じになるが、前提が違っている。
(b') I love Julia as much as Fred loves. ((フレッドはジュリアを彼なりに愛しているが)私も彼と同じくらいには彼女の事を愛している。)
丸括弧で括った部分に前提となる「愛情の度合い」を書いたが、あえて省略してある。それ以外にも「同じくらいに」を「同じくらいには」に変える事で「愛情の度合い」を幾分緩めた表現に修正してある。
以上の事から分かるのは、日本語の場合には単に「比較構文」が明示する相対的な差違を訳すだけでは不十分で、潜在化した前提の度合いや条件などを前面に出す工夫をしなければ、適切な日本語にならないという事である。そこで改めて例文に立ち戻る。この例文では、親と子が互いに向ける愛情の度合いを比較しているわけだが、「私」とか「フレッド」のように個別の愛情を取り沙汰しているのではなく、「親たる者」とか「子たる者」という視点で一般的な話をしている。だから「親は愛情をこめて子を見る」という事が前提となっている。その点を少なくとも訳文に入れ込まないと日本語として分かりにくい。
(推敲訳) 親は愛情をこめて子供を見るが、それと同じくらいの愛情をこめて子供が親を見ているわけではないのは、残念ではあるが事実である。
比較の問題はとりあえず片がついたので、その他の点を推敲していく。look upon … with affectionは確かに「愛情をもって…を見る」という意味だが、日本語としては熟れていない。「愛情を示す」とか「いとおしく思う」という表現の方が適切だろう。それと、親だから必ず子に愛情を持つという訳でもないので、あくまで「傾向としてそうだ」と書くことにする。
(推敲訳) たいていの親は子供をいとおしく思うものだが、それと同じようにたいていの子供も親をいとおしく思うものだとは必ずしも言えないというのが現実だ。残念な事ではあるが。
posted by アスラン at 08:50| 東京 ☀|
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